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どんぐりのちくわパン(北海道札幌市)|柳家喬太郎の旅メシ道中記

当代一の落語家・柳家喬太郎師匠。お声がかかれば全国あちこち、笑いを届けに出かけます。旅の合間の楽しみは、こころに沁みる土地の味。大好きなあのメシ、もう一度食べたいあのメシ、今日もどこかで旅のメシ──。この連載「旅メシ道中記」では、喬太郎師匠の旅メシをご紹介します。

 パンもちくわも、お互い「まさか」と思ったでしょうね。初めて一緒にオーブンで焼かれたときは。「どうして出会ってしまったんだろう」と。そこでちくわの穴に入って仲を取り持ったのが、飴色玉ねぎとツナマヨを合わせたツナサラダ。こうして札幌市民が愛してやまない「ちくわパン」が生まれたのでした。

 考案者は、地元で人気のベーカリー「どんぐり」の創業者である野尻就二さんの妻・好子さん。お客様の要望で作ったそうですが、「ちくわ×パン」の無茶ぶりに真摯に向き合った奥さんはすごい! ちくわの穴から将来を見通していたのか、今ではご当地パンとして全国的に知られ、あたしも数年前に出合って以来大好物に。札幌の落語会の楽屋にあると、高座前に嬉々としてパクついております。

 しかし焼きたてを食べたことはない。また格別らしい。店ならあったかいのがあるということで、札幌駅から車で20分程の「どんぐり本店」を目指してタクシーに乗り込んだら、さっそく遭遇しました。ちくわパン好き、運転手さん。いわく「いろんなところがちくわパンを作ってるけど、どんぐりのはちくわが違う。しっかりしてる。他所よそのはちくわをおかずにパンを食べてる感じだけど、どんぐりはパンとちくわの一体感もすごい」とちくわパンも照れるくらいの称賛。道すがら出合ったこのちくわパン愛を、どんぐりの広報・矢本雄大ゆうたさんに伝えると「ちくわの違いに気づいてくれてうれしい! パンと焼き上げたとき一番おいしくなる特注品で、もっちりした生地に負けないくらいぷりぷり。パンの両端からちらっと出ているのも可愛いんです」と、こちらの愛も負けていませんでした!

 不動の売り上げ1位。でも、どんぐりのスタッフは市民のちくわパン愛に甘えてばかりじゃない。「うちでは立場に関係なく誰でも自由な発想でアイデアを出して、月に40~50種の新商品を作っています。みんないつか、ちくわパンを超えたいと思ってるんです」

 本店前の椅子に腰かけて食べた焼きたてちくわパンは、ツナサラダの醤油の風味が一層豊かで後引くおいしさ。もう1個食べちゃおうかな、イヤさすがにいかんだろと逡巡しゅんじゅんしていたら、財布を持った矢本さんが事務所から出てきて「ちくわパンの話してたら食べたくなっちゃって!」と店に消えていきました。どんだけちくわパン好きなんだよ! って人のこと言えねぇけどさ。(談)

談=柳家喬太郎 イラストレーション=大崎𠮷之

【どんぐり】
1983(昭和58)年創業。ちくわが丸々1本入った総菜パン「ちくわパン」の元祖で、札幌市内と近郊に12店(うち1店はおむすび専門店。森林店はちくわパン取り扱いなし)と、函館市に地元ベーカリーとのコラボ店1店を展開。各店1日約400個売れるちくわパンのほか店舗ごとにオリジナルパンがそろい、閉店30分前まで焼きたてを提供している

【どんぐり本店】
☎011-865-0006
[所]北海道札幌市白石区南郷通8-南1-7
[時]8時~20時 
[休]元日 
[料]ちくわパン205円 
*他店舗は下記URLよりご確認ください
https://www.donguri-bake.co.jp/shop/

【師匠プロフィール】
柳家喬太郎
(やなぎや・きょうたろう)
落語家。1963年、東京都世田谷区生まれ。大学卒業後、書店勤務を経て89年に柳家さん喬に入門。2000年真打昇進。「タクシーの運転手さんがおすすめしてくれたカレーパンも絶品でした! 俺も新作落語創り頑張らないとなぁ……」

出典:ひととき2024年10月号

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