【有松鳴海絞り】400年の伝統を持つ手仕事から生まれるモダンデザイン(愛知県名古屋市緑区)
繊細な凹凸のあるシェードから広がる柔らかな光。モダンで印象的なこの照明は、江戸時代から続く絞り染めの伝統技法と、熱で形状を定着させるヒートセットという現代の技術が出会って生まれた。「シェード生地の豊かな表情と陰影は、熟練した有松鳴海絞りの技でしか表現できないものです」と、デュッセルドルフと有松を拠点に絞りの魅力を発信するsuzusanクリエイティブディレクターの村瀬弘行さん。
慶長13年(1608)、木綿を絞り染めにした手拭いを東海道の土産物として売り出したのが有松鳴海絞りの始まり。「縫う」「括る」「たたむ」というシンプルな手技で布を絞り柄を染めるその技法は、100種以上あるともいわれる。「地域の財産である技法は守り、素材と用途を変えることで、現代の生活や使い手に寄り添う新しい有松鳴海絞りを提案しています」と言う村瀬さん。カシミヤやコットンリネン、アルパカなど上質な素材にこだわり、美しい色調に染めたファッション、ホームアイテムには、丁寧なものづくりへの情熱が込められている。
もうひとつの産地ブランド、山上商店cucuriのショップには、ポケットや袖に絞りのヒートセット生地をあしらったシャツやブラウス、軽やかに揺れるイヤリングなど、すぐにでも身につけたくなるアイテムが並ぶ。
2015年に、デザイナーの今井歩さんとcucuriを立ち上げた山上正晃さんは「絞りから生まれる独特の立体感やしわの造形的な面白さをデザインに生かしています。有松鳴海絞りならではの魅力をもっと身近に、カジュアルに楽しんでほしい」と語る。定期的に開く絞りのワークショップも好評で、手応えを感じているという山上さん。「cucuriを通して産地の取り組みや絞りの可能性をもっともっと伝えていきたいですね」
伝統の価値を未来へとつなぐ有松鳴海絞りのこれからが楽しみだ。
文=宮下由美 写真=阿部吉泰
出典:ひととき2023年4月号
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