【かんざらし】ここでしか食べられないソウルスイーツ(長崎県島原市)
日本全国の“地域の宝”を発掘する連載コーナー「地元にエール これ、いいね!」。地元の人々に長年愛されている食や、伝統的な技術を駆使して作られる美しい工芸品、現地に行かないと体験できないお祭など、心から「これ、いいね!」と思える魅力的なモノやコトを、それぞれの物語と共にご紹介します。(ひととき2020年9月号より)
こぽこぽと音をたてて、澄み切った湧水があふれ出す。その水が共同の洗い場を満たし、近所のひとたちが野菜や食器を洗う。入り組んだ周囲の路地を半ズボンやおかっぱの子どもたちが走っていく。
銀水前にある浜の川湧水は、市内でも一番生活に溶け込んでいる湧水スポット。食品用、洗濯用など用途別に洗い場が区切られ、そのしきたりはしっかり守られている。喉が渇けば常備されたひしゃくですくって飲める
洗い場のある広場の奥に、小さな茶店が建っている。湧水を渡る風が吹き抜ける上がり座敷で毎日、かんざらしの粉をこねて作られる、たくさんの小さなおだんご――。
かんざらしは、1915年(大正4年)創業のこの店「銀水(ぎんすい)」で生まれた島原の名物だ。指先ほどの白玉だんごをべっこう飴の色をした蜜に浮かべた、懐かしく優しい甘味。
銀水のかんざらし。昔は蜜を作る砂糖が贅沢品だった。今ではこの湧水が贅沢品だ
島原市内の60カ所以上で豊かな水が湧き出している。この水なくして、かんざらしの美味しさは語れない。口あたりの良い軟水。水温は1年を通じて15度前後と一定だ。
銀水のタイル張りの流し。昔のままを補修して使っている。蛇口から流れるのもポンプでくみ上げただけの湧水。写真は店員の宇土浩美さん
「銀水で初めて食べたかんざらしが忘れられなくて。お店で出すと決めた時ずいぶん研究しました」
「喫茶ケルン」の山﨑順子さんがいう。
現在多くの店舗で食べられるかんざらしは、レシピにお店ごとの工夫と秘密がある。ただ、茹で上がった白玉を湧水で冷やし、湧水で作った蜜に浮かべる、という基本は変わらない。
喫茶ケルンのかんざらしにはクラッシュアイスがたくさん入る。氷が溶けると蜜も飲み干せるちょうど良い濃さに
オーガニック素材にこだわる「青い理髪舘 工房モモ」では、大正生まれのかんざらしを大正時代の建物でいただくことができる。
「子どものころ、祖母が作ってくれるかんざらしが大好きでした」
と話すオーナーの渡辺陽子さん。かんざらしは家庭の味でもあった。
[上]青い理髪舘 工房モモのかんざらしには、ハート形が1つ。運が良ければ2つ見つかるかも? [下]1923年(大正12年)築の理髪店を改装したカフェ。古い理容イスやタイル張りのシャンプー台も残されている
文=瀬戸内みなみ 写真=荒井孝治
ご当地◉INFORMATION
島原市のプロフィール
幾多の激動を乗り越えてきた島原。キリシタン領主のもと南蛮貿易が盛んだった時代から一転、江戸時代の苛政により史上最大の一揆「島原・天草一揆」が起こる。噴火を繰り返す雲仙普賢岳は、1991年にも火砕流で甚大な被害をもたらした。一方でその火山は、湧水をはじめ温泉や豊かな農産物など素晴らしい恵みを与えてくれており、それが当地の魅力となっている。
問い合わせ先
しまばら観光おもてなし課 ☎0957-63-1111
https://www.city.shimabara.lg.jp/
銀水 ☎0957-63-4610
青い理髪舘 工房モモ ☎0957-64-6057
喫茶ケルン ☎0957-63-5711
出典:ひととき2020年9月号
最後までお読みいただきありがとうございます。いただいたサポートは、ウェブマガジン「ほんのひととき」の運営のために大切に使わせていただきます。