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そうだ、映画を観よう。

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おすすめ映画の紹介や、映画監督へのインタビューなどをまとめていきます。
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#ほんのひととき

映画が生まれるまち|杉田協士(映画監督)

列車を降りて他に誰の姿も見当たらない駅を出ると、一軒だけある食堂が目に入った。中を覗き、汁物の麺料理を食べていた男性に声をかけ、持っていたメモ帳に目的地の街の名前を漢字で書いて見せながら、どうやったらそこに行けるかを身振り手振りで尋ねた。食べ終わるのを待つように、と読み取れるような動きだけ返してくれた。しばらく店の表で待った。 男性は原付バイクの後ろに乗せてくれた。山の中をうねうねとつづく坂道を登る間、重たいバッグを背負いながら、ただ振り落とされないことに集中していた。ずい

映画『とりつくしま』~故人の願いを映し出し、残された人に光をそそぐ

死んでしまった後に誰かのモノになれるとしたら、あなたは何になりますか──。すでに亡くなった人に、「とりつくしま係」がこの世への未練について、そして“とりつきたい”モノについて問いかけます。妻は夫のマグカップ、男の子は公園の青いジャングルジム……。考えた末に希望のモノを見つけ、それぞれの魂がモノに宿ります。 本作は、累計14万部を超えるロングセラーとなった短編連載小説『とりつくしま』(東直子著、筑摩書房、2007年)が原作。著者の娘である東かほりさんが原作11篇の中から4篇「

映画『彼方のうた』天性のカメラワークで純粋に、丁寧に人を映し出す

本作品は、喪失感を抱えた人を描き続ける杉田監督による長編4作目。第80回ヴェネチア国際映画祭ヴェニス・デイズ部門に出品されるなど、国内外の映画祭で評価を得ている。 書店員で働くヒロイン・春(小川あん)は、助けを必要としている見知らぬ人のことを思い、手を差し伸べていく女性。春は、かつて子どもの頃に街中で声をかけた雪子(中村優子)と剛(眞島秀和)と再び接点を持ったことで、自分自身が抱えている母親への思い、悲しみの気持ちと向き合っていく。 純粋に、丁寧に人を描く映画舞台挨拶では