310　スマホ依存で不安が消える？

寝る前にスマホを見るな、というけど

　取材で「快眠」をテーマにいろいろな専門家に話を聞いたことがあった。ほぼ一致していたのは「スマホを見るな」だった。あるいは「寝室にスマホを置くな」だったり、要するに眠る環境からスマホを切り離すことを勧める。確かに、それはありそうな話だと思う。
　ところで、話は少しズレるが、前から少しばかり疑問なエビディンスめいた話がある。奥歯を失った人は認知症になりやすいという説。しかし、よく読むと奥歯を失ったから認知症になるわけではない。①奥歯がなくなると噛み砕く能力が低下する。②食べやすい物を選ぶため栄養素が偏る。③その結果不健康となり認知症になりやすい。だいたい、こんな感じ。ずいぶんと迂遠ではないか。それに、入歯などで失われた奥歯の機能を補っていれば問題ないらしい。
　それを、「奥歯がないと認知症になるんだよ」と言ってしまっていいものだろうか？
　最近、「●●だと××になる」的な説をよく見受けるのだが、正直「それは直接の原因ではないよね」とツッコミたくなる。
　この説でいけば、お酒を飲む人は死ぬ、と言ってしまえばそれまでだと思うし（①酒を飲むと②飲酒運転の可能性が高まるし③不健康になる可能性が高まるから④死ぬ確率も高まるよね）、なんだって結びつけて人を脅すことができる。たぶん、大学を卒業すると寿命が縮まるなんて説だって、やりようによっては作れそうだ。少なくとも大学を卒業すると子どもを生まない可能性が増える、なんてことは言えてしまいそうだし。直接、関係ないよね。
　これって、結局、しょっちゅうテレビでＣＭの流れるサプリを売りたいがための広報戦略じゃないかとさえ勘ぐる。ハリウッド映画もそうだけど要するに広報の経費を潤沢に使っている産業の影響は大きい。研究機関もそこの援助が欲しいから、スポンサーが喜びそうな研究をするだろう。それはこの秋に公開される予定の映画の主人公について、最新の研究結果でこれまでの通説を覆す可能性が出ました的な情報をメディアが流すのとよく似ている。映画が公開されてしまうと、その研究がどうなったのか誰も報じない。本当に研究してたのかよ、と思うこともある。

私はスマホで眠れる

　レアケースなのかもしれないけど、私の場合、眠る直前までスマホで情報（明日の天気、雷雨のレーダーとかＸとか）を眺めているけれど、寝付きはとてもよくてだいたい6時間はノンストップで眠れている。
　とはいえ、年齢もそこそこ高くなっている。夜中にふと「そうだ、あれをやらなくちゃ」とか「あれがこうなったらどうしよう」とか思って目が覚めて眠れなくなることがある。スマホを時計代りにしているのでそのたびに時間をスマホで確認する。1時半。3時半、4時半あたりが多いようだ。ひどいときは、1時半頃に一度目が覚めて、また眠ったけど4時半に目が覚めてしまう、なんてこともある。日中、あくびが出るような睡眠不足はないし、昼寝したくなることもないけど。
　以前、医者の指導の下で自分のベストな睡眠時間を計測したら6時間だった。夜の10時に眠れば4時に目が覚めても問題ないのである。
　そして、夜中にそうやってふいに目が覚めたとき、スマホを眺める。Ｘとか。あるいは電子書籍を読む。「朝になってから考えればいいや」とメモだけ書いておく。だいたい30分ほどでまた眠くなってスーッと寝てしまい起床すべき時間まで寝ている。
　どう見ても、私の行動はスマホに依存している。ところが、それによって夜中に意味もなく湧き上がる不安を解消できている。わずかひとりだけの例外的な行動なのかもしれないけれど、やっぱり、こういうのは個人差が大きすぎて一般化するには厳しいのではないかと気付いた。
　つまり「スマホを見るな」で確かに睡眠の質を向上させることも可能であるとしても、それは人によって違う。睡眠の質を向上させる要因はもっと別にあってもいい。布団や枕。ストレス。仕事の性質。夕食に食べたもの。飲酒。就寝時間。健康状態。複雑な要素が絡みあって快眠できる可能性は高まるけれど、誰もがそれによって必ず快眠できるわけではない。初日は快眠できたとしても、数日後にはまた眠れなくなるかもしれない。同じルーティーンを守っても、効かない日はあるはずだ。そのとき、どうするか。
　それは結局、人それぞれに自分のやり方を見つけるしかないのではないだろうか。
　そういえば多くの人が言う「夜中に考え事をするな」については、私も同意している。これは眠る前に考え事をするな、ということだと解釈している。実際、ろくなことがない。目が覚めてから、できれば翌朝になってから考えた方がいい。
　その証拠として、夜中に念のためメモしたことの大半は役に立っていない。どうしてこんなことをメモしたのかと自分を疑いたくなる。

光と影。それがおもしろい。