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飲み会が苦手な「映画好き」に捧ぐ 『そばかす』感想
ネタバレ注意
飲み会で浮いてしまう映画好き
映画冒頭、主人公が『宇宙戦争』の話をする。
すると、周りの人たちが急に冷めた態度になる。
さっきまで鬱陶しいぐらい騒いでいた男も急にきょとんとする。
主人公がトム走りについてアツく語るのだが、主人公がアツくなるのに反比例して、男たちはどんどん冷めていく
(この男を演じるのは田村健太郎さん。背中しか映らないし5分にも満たない出演時間だが、素晴らしい演技!)
この場面は、映画好きには身につまされる場面だ。
なぜなら、多くの人が言う「映画が好き」と、映画好きの言う「映画が好き」はまったく異なるからだからだ。
前者はあくまで、「配信とかでたまに見たり、〇曜ロードショーでジ△リ見てます~」ぐらいのノリだ。
一方で後者は、「トム走りには二種類あって、何かから逃げる走りと何かへ向かっていく走りとがあり、それらは・・・」のように、映画について語り始めたら止まらない、筋金入りの映画オタクである。
私はこの場面を見て身につまされる思いだった。
この場面を見ただけでも多くの映画好き(もちろん後者の意味で)もまた、
「あ、これ、身に覚えがある!!」と感じずにはいられないのではないだろうか。一般的な飲み会では「トム走りが・・・」と映画をアツく語るのは厳禁である。
飲み会行く金あったら映画館行きたい
映画終盤、主人公が職場の新人(北村匠海)と一緒にミニシアターに行く。ここでおもしろいのは、新人は飲み会の誘いを断ったうえで、主人公とミニシアターに行くことだ。
私は常々こう思っている。
「職場の人と飲み会行く金あったら、その金で映画見たい・・・」と。
この映画がより多くの人に見られることで、飲み会ではなく映画鑑賞会なる文化が広まってほしいと切に願う。
そっちの方が安いし楽しいって、ぜったい!
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似てる作品
『傲慢と善良』(2019)
『そばかす』の主人公は、母親に騙されてお見合いに出席させられる。
母親が主人公の将来を心配して、勝手にお見合いを設けたのだ。
余計なお世話である。
こうした描写は、『傲慢と善良』と類似していた。
これら二作品からは、地方における結婚の価値観や、「お見合い文化」と言ったものを読み取ることができる。
『正欲』(2021)
両作品とも、地方に住む性的マイノリティの生きづらさを描いている。
それに、おそらく『そばかす』の主人公の部屋と、映画版『正欲』の主人公の部屋は、同じ家を使って撮影してる気がする・・・
『魂のゆくえ』(2017)
両作品にはカメラワークにおいて類似性が見られる。
両作品とも、基本はカメラを固定したままで撮影する。
しかし、ここぞという場面で、カメラがダイナミックに動き出す。
こうしたカメラワークによって、場面の盛り上がりや、劇的な展開を表現している。
なお、ラストで主人公が走り出すのは、「何かから逃げるトム走り」から、「自分から突き進んでいくトム走り」へと昇華していったからだろう。
『そばかす』とは、主人公がトム走りできるようになる作品である。