「ファイアパンチ」から見る藤本タツキさんの"味"と主人公アグニの由来
最近、藤本タツキさんの「ファイアパンチ」という漫画を読み返した。
頭部だけになっても復活できるほどの再生能力を持ちながら「消えることのない炎」を浴びせられたことで、全身を炎で焼かれたまま生きることになった主人公が、妹の復讐を果たそうとする、という内容の物語だ。
ただ、突然ブッラクユーモアたっぷりのギャグ漫画になったり、唐突な不条理展開が現れたりする点は、チェンソーマンで見られるような、藤本さんらしい「クレイジーさ」が滲み出ていると言える。
この一方で、この漫画の最終的なメッセージとしては、
「宗教とは何か」「教養とは何か」「贖罪とは何か」「本当の自己とは何か」
という、人間の根源に迫る深い内容となっている。
また壮大な神話を見たような読後感、ある種の美しさを覚えるようなカタルシスをも感じられる。
言い方は悪いが、かなりのイカれ具合やメチャクチャさを感じながらも、最後には綺麗な結末を迎え、時に神秘的な感覚さえも生まれるというのが、本作品でも見られる藤本作品の妙味である。
ここからは少し余談だが、主人公の名前について少し考えたことがあるので述べておきたいと思う。
主人公の名前は「アグニ」だが、これはインド神話の火の神アグニに由来していると思う。
というのも、火はラテン語ではignis(イグニス)であり、英単語のigniteは「火をつける」という意味がある。また、インド神話の源流となるアーリア人の信仰において、火や雷は自然崇拝の対象であった。
アグニ自体はサンスクリット語だが、ラテン語とサンスクリット語の言語学的な祖先は同じで、共に「インド=ヨーロッパ祖語」に属する。加えてアーリア人は、「インド=ヨーロッパ祖語」を話していた。
すなわち、「火の神アグニ」「アーリア人の自然崇拝」「ignis(イグニス)」「ignite」「ファイアパンチの主人公、アグニ」は全て関連している。
こうして漫画のキャラクター名の由来を言語学的に分析してみるのは面白いし、
そうすることで色々とエンタメ作品の見方が変わるかもしれない。