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日記は、やがて自分だけの長編小説になる

日記が何冊も積み上がっていく楽しさ

現在、僕は日記歴2年半でキャンパスノート7冊目です。今まで書いてきたノートを積んでみると、結構な厚みになります。2年半でこれだけの文章を書いてきたんだなぁという達成感が湧いてくると同時に、久しぶりに1冊目を開いてみると懐かしさや面白さの波が一気に押し寄せてきます。

「2年半前って、こんなことやってたのか。すっかり忘れてた。なんだか、ずいぶん昔の話を読んでいるように感じる」

日記を開けば、当時感じていた新鮮な感情たちが言葉となってそのまま保存されているので、濃い記憶にもう一度出会うことになります。日記を書き始めてから今に至るまで、自分が覚えているよりももっと密度の濃い経験と感情を味わってきたのだと、大量の文字たちが教えてくれます。

日記は書き続けるほどに深みが増していき、自分だけの長編小説へと育っていきます。自分の人生をそのまま投影したこの世に1冊しかない小説を、現在進行形で書いていき、たまに読者となって物語を楽しむ。日記にはそんな魅力があると思っています。

自分の成長物語

前職を退職するとき、入社1年目の時に課せられていた日報をふと読み返してみました。「自分って1年目の時こんなに仕事できてなかったんだ」とちょっと驚きました。今考えればそんなことでミスするか、というようなことを反省文として書いていたり、課題に対する解決策が微妙だったり、改めて当時の仕事のできなさを思い返してぞくっとしました。また、一つの日報に書く話題が散乱していて何が言いたいのかわからないものもあり、文章力もひどかったんだなぁ、と思いました。

昔の日報がひどいと思えるということは、入社2年4ヶ月でそれだけ成長したということだとも思えました。当時の日報が駄文だったとしても、当時の自分なりに必死に考えて日報を書いていたのだから、それだけ仕事の能力が向上したということです。自分がどれだけ成長したかというのは目に見えにくい部分もあり、成長実感が持てずに不安になる時もあると思いますが、過去に書いた文章を読み返すことで、自分の歩いてきた道のりを実感できます。人と比べるのではなく過去の自分と今を比べることで、自分はなりたい姿に向かってこれだけ前進したんだという揺るぎない自信を持つことができます。

そして、物語の醍醐味の一つが主人公の成長や考え方の変化であるように、成長の跡が日記という物語に読み応えを与えるのです。

その当時の自分でないと表現できない言葉たち

日記を読み返して、当時の文章力の乏しさに呆れることもあるかもしれませんが、逆にその当時でなければ書けないような瑞々しい言葉もあります。僕が中学生の頃宿題で書いていた日記を読み返してみたら、こんなことを書いた日がありました。

昨日の合宿は午前中に終わり、そこから直で祖父母宅へ行き、今日はそこで夏休みらしくダラダラして、合宿の疲れを取りました。でも、全部疲れを取りきれなかったので締めに鼻血を出しました。寝ている間に布団が殺人現場っぽくなりました。体の血が全部抜けました。なんちゃって

うわぁ…今の自分では絶対書けない文章だ…笑

生々しい出来事や豊かな想像力は、感情に熱を持っているその時でなければ言葉にすることができないのです。感性あふれる子どもの文章は大人になってからは書けないし、おそらく今24歳として書いているこの文章の空気感も、歳をとってから同じように書けるわけではないと思います。日記は、その時々の一番熱がこもった文章が積み重ねられていく面白さもあるのです。自分の人生を総棚卸しして再現できるものではないのです。

続きを読みたいから、日記を書き続ける

今少しずつ積み重ねている日記も、何を書いたか忘れた何年後かに読み返すことになります。もしネガティブなことが書かれていたとしても、未来の自分が「こんなことで悩んでたんだ笑」「あの頃だからこその悩みだよなぁ…」と感慨深く読んでくれると思いませんか?そう思うと、連載小説を待っている未来の読者(自分)のために、今日も日記の執筆をしたくなるのです。自分の人生をかけた壮大な物語を一生かけて書き、同時に壮大な物語の唯一の読者として、一生日記のファンであり続けるのです。

人生のパートナーとして、一緒に歩んでいく

僕は日記のことを、人生を一緒に歩むもう一人の自分だと思っています。嬉しかったことや悲しかったことをもう一人の自分と分かち合います。今後やっていきたいことや将来に対する不安も、もう一人の自分と相談して進むべき道を決めていきます。時々もう一人の自分と懐かしい話をしながら、小説を楽しみます。

僕は最期を迎える時、何百冊もの日記に囲まれて、エピローグを迎えたいと思っています。


参考:さみしい夜にはペンを持て(ポプラ社)

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