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コンタミ 霧と白樺

こんなのは わたしじゃないから真夜中に 書きなぐったままのメモを踏んで散らした

忘れたら きっとどうにかなるのかな コップを溢れた精製水も

コンタミと 滑って割れた試験管 切れた指先 
ふわり、散る 黴

水音と ぬめる空気が心地良くて 
雨空の中 君を迎えに

うすい膜 張ったみたいな 雨空と  
ホワイトボードの 過去完了と

 最近、どうしてもうまくいかない実験があった。凄く気を使って作業しているのに、どうしても培養液がコンタミする。コンタミというのは目的の物以外が培養されてしまうことで、前日に作った培地に沢山カビが生えていたりすることがこれにあたる。普段、試験管の中に生えるカビはふわふわしていて可愛いなあとぼんやり思ったりしているのだが、今回の実験ばかりはコンタミを可愛いと思うような余裕は無かった。数十回失敗していたらそうもなると思う。
 集中力を欠いて培養瓶を割ってしまったあたりで、何となくこのまま続けても上手くいかないんだろうな、と悟った。悟ったところで結局は必修科目の課題実験ではあるため、結果は出さないといけないのだけれど、とりあえず2、3日実験から目をそらすことにした。
 目をそらして、山に白樺を見に行った。街路樹の白樺と野生の白樺は何となく、雰囲気が違う。野生の白樺はあまり力強くは見えないのだけれど、それでも飄々としている。古い白樺だと、もう樹皮もあまり白くなくて、ところどころ朽ちてきたりしている。そもそも白樺自体があまり寿命の長い木ではないから、大木、というほどのサイズがあるものはそんなにない。ただ、ちょっと年を経た白樺の雰囲気は独特なものがあって、私は凄く好きだ。大学の近くにある山には白樺が所々に生えているから、とりあえず登ってみることにした。
 前日の大雨のせいで、山道はひどくぬかるんでいて、3合目で私のズボンの裾がびしょびしょになった。とにかく霧が濃くて、結構不安だった。クロモジの葉の色が綺麗だった。山道に落ちている赤い実を見て、そうかもう秋なんだ、とぼんやり思った。
 マイナスイオンが、とか、精神が浄化されるような、とか、そんな感じの感想を並べる人の言葉を聞くたびに私は何となく嘘っぽく感じてしまう。けれど、山に登る事は割と精神衛生上良いんじゃないかとは思う。基本的に他のことを考える隙はないし、景色が常に切り替わっていくから面白い。
 目当ての白樺は相変わらずぼーっと立っていた。幹にキノコが生えていたり、細い枝に蔦がぐるぐる巻いていたりした。周りに生えているブナやスギとくらべたら小さかったけれど、いつも通り飄々とした雰囲気で、そこに立っていた。めちゃくちゃ格好良かった。
 ブナを見たあと、せっかくだから頂上まで登ったのだが、流石に頂上は寒かった。Tシャツに薄手のパーカーは頂上を楽しめる格好ではなかった。霧も一段と濃くなって、低い場所を見下ろす、という行為も出来そうになかったので早々に下山した。
 家に帰ったら何故か右足だけに青痣が集中していて、その形容しがたい色が結構グロテスクだった。
 別に白樺を見に行ったとて、実験への意欲が増すとか気分が前向きになれるとか、そんな事は無かったのだけれど、何となく気分は良かった。
 次はもう少しちゃんとした服装で行こう、と湯船につかりながら漠然と思った。


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