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【エッセイ】10年後の自分のために本を売る

2024年8月1日から高円寺でプレオープンを迎えるシェア型書店「本店・本屋の実験室」に棚を借りた。
屋号は「ほんだな」。
本格始業は2024年9月1日。
晴れて憧れの本屋さんデビューである。

昔から本が好きで、特にマンガが好きで、世界中で日本のマンガが読まれている状態なんて夢のようだと思っている。
憧れのマンガ編集者になって、もうすぐ16年が経とうとしている。
マンガ市場が膨れ上がる一方で、町の書店は減少の一途を辿っている。
独立系書店もたくさん増えてきたが、マンガを幅広く置いてくれるところは少ない。
もちろんマンガと文芸やエッセイとは単価が違うし、状況も違うことはわかっているけれど、何かもうちょっとやれることってないのかな、と漠然と思い続けている。

本を買うときに、これは何かの参考になるかも、と思いながら購入して、結果的にただ本のおもしろさだけを享受して担当作品にあまり反映してないことの方が多い。
買い漁った諸々は自宅本棚だけでなく床も圧迫し、もはやベッドの上の空きスペースで毎晩寝ている。
大量の本に囲まれている安心感と、果たしてこの本を読む日はくるのか?という失礼な疑問。
上京したときに持ってきた本棚は2本だったが、今や5本の本棚にも収まりきらない本が部屋に散乱している。

果たしてこの本棚の本を最後に読んだのはいつだろうか。
5年は読んでいないのでは? はたまたもっと?
10年読んでなかった本を明日読むかもしれないし、明後日読んだら違う感想を持つかもしれない。
数年前の自分と環境も立場も変わると、文章から得る印象は随分と変わることを経験として知っている。
それでも、このまま狭い部屋の中でいつ持ち主が死ぬかもわからない状態で置いておくよりは、誰かの目に触れる形で表に出した方がいいかもしれない。
置き場所だけを求めてレンタル倉庫に仕舞い込むよりは、誰かに読まれる可能性がある棚に置いておくのがいいかもしれない。
そんな折に、かねてからフォローしていた高円寺のコクテイル書房さんが新たなシェア型書店を開業する旨を知った。
「持続可能なシェア型書店」をキーワードに、管理人だけが儲かって棚主はほぼ趣味の延長として本を置く……という形にはしたくない、というつぶやきには、大いに賛同したいと思った。

自宅の本棚を拡張する気持ちで、私の「本棚」の中身を誰かの「本棚」に共有する。
そして手にとって、「本だなあ」って思う。
棚を借りようと決めたとき、そんな意味づけがすぐに頭に浮かんで屋号を決めた。
別に特別な知識が得られなくても、おもしろくなくても、意味が理解できなくても、本は本である。
装丁かっこいいとか、書体が読みやすかったとか、そんな感想だけを持ってもいいのが読書体験だと思う。
それぐらい、本の循環はおだやかでゆるやかで適当でいいんじゃないか。
(とはいえそれでは著者が儲からないからもっと根本的な解決方法は必要だと思うけど…)

いつか、本屋を開きたいかもしれないと漠然と数年前から思い始めた。
とにかくマンガが好きで、マンガを作る手助けになる仕事がしたかった。
10年後、社会がどう変わっているのか本当にわからない。
でも最終的には、やっぱり読者に一番近い場所で作り手を応援したい気持ちがある。
もしかしたら、20年後にはマンガや本を一番売っている場所は本屋じゃないかもしれない。(ネット書店はまた別として)

どんな社会がやってこようと、自分が本好きであることにはきっと変わりはないし、収集癖があることも辞められないと思うので、しばらくは自分の本棚を拡張しながら、ちゃんとこれが持続可能な商売になるようになっていったら、それはまあ結構幸せな未来なんじゃないかと思う。

#未来のためにできること

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