マリエ叔母ちゃん

彦根市高宮町は祖父母の家だった。
叔父と叔母、子供たちも同居していた。
夏休み子供のボクはこの家に預けられ、
田舎暮らしを体験していたのだった。

祖父母が死に叔父も3年前に亡くなり、
いまは叔母が一人暮らしをしている。
二人の息子は市内に住んでいるが、
同居はお嫁さんがしたくないのだろう。

叔父の葬式の時に従弟の広樹くんが
「おかんが少しボケてきた」と言った。
ヒロキくんはやさしいやつなので、
休みの日は必ず母を看にいっている。

マリエ叔母ちゃんは美人で有名だった。
その叔母ちゃんのボケが進んでいるのか。
よく蝉を捕るボクに「かわいそうや」、
「逃がしておやり」と言っていた。

叔母ちゃんが呆けるはずはない、
でもと心配になって遊びに行った。
ボクが来るというので掃除したり、
料理の準備をしたりとてんやわんや。

とても申し訳なかったのだけれど、
叔母ちゃんと話すのはとても愉しい。
今でも美人のおばあちゃんで、
頭の回転もすこぶる速くよく喋る。

それでもボクが話したことをすぐに忘れ、
同じことを何回も聞いてくるけれど、
でもそれって年相応の物忘れという感じ。
会話は成り立っているしちっともおかしくない。

叔母ちゃんは自分のボケが心配らしく、
「体はいいのだけど頭が悪い」と言う。
「もっと自信を持っていいよ」とボク、
叔母ちゃんを励ますことに務めた。

叔父さんが死んで一人暮らしだと、
人と話をすることがなくなってしまう。
近所の人に会ってたくさん話すといいのに。
趣味とか持って会に入るのもいいだろう。
叔母ちゃんにはずっと元気でいて欲しいのだ。