リパッティのショパンワルツ
ディヌ・リパッティ。
33歳の若さで死んだ天才。
白血病で倒れたルーマニア人。
死んだ年は1950年12月2日。
死んだ場所はジュネーブ郊外。
最後のリサイタルはこの年、
9月のブザンソン音楽祭。
バッハ、モーツァルト、ショパン、
力尽きプログラムの最後まで
弾き切ることはできなかった。
シューマンの協奏曲が好きで
リパッティが愛聴版だったが、
noteで知った和田大貴さんから
ショパンのワルツ集がよいので
聴いてみたらと勧められた。
ショパンのワルツといえば、
華やかで優雅と思っていたら、
リパッティの演奏はまったく違う。
最初の5番「大円舞曲」から
なぜか儚い哀愁が漂っている。
6番の「子犬のワルツ」だって
もう会えなくなるような寂しさ、
短調の7番や10番は切なく、
3番の「華麗なる大円舞曲」も。
最後の長調の1番でさえも。
リパッティは完璧な指奏法と
抑制されたペダリングが特徴。
透明な音色と純粋で洗練で謙虚、
凛とした詩情でピアノが歌い、
貴族的な格調の高さを生みだす。
しかしこの演奏はそれらに加え、
鬼気迫る気高く孤高の緊張感がある。
ミスタッチを凌ぐ思いの強さ、
ショパンのワルツに涙さえ出てしまう。
思わず録音の日付と場所を見た。
「1950年9月16日ブザンソン」だった。