苦しみの果てに喜び?
ベートーベン交響曲第九番、
合唱でテノールを歌っている。
フーガではアルトが出てソプラノ、
その後テノールがフォルテで出る。
“Seid”と歌い出すのだが、
この音が上のラなのである。
とても高く、簡単には出ない。
顔が上がり喉が締まってしまう。
「ザーッ」が「ギャーッ」と
叫び声のようになってしまうのだ。
「喜びの歌」なのに喘ぎ苦しみ、
顔が紅潮して断末魔のようだ。
合唱指導の先生はなんとか、
この上のラを出させようとする。
顔を上げずにやや下を見ろだの、
肩を上げずに脇を開けろという。
遂には歌う直前に人差し指で
地面を指してみろという。
あら不思議、高い声が出る!
トンと指して「ザーッ」である。
ようやく苦しみから解放され、
いいぞいいぞと歌い続けるが、
その後も“Freude!”で上のラ、
これも直前指差しで乗りきる。
しかし“Diesen Kus der”から
上のファを連続で歌わされ、
喘ぎ苦しんだ最後の最後に
再び上のラの連発地獄が来る。
“Gotterfunken! Gotterfunken!”
これは「神々の火花よ」の意味。
まさに目の前に火花が弾けて、
第九が歌い終わるのである!