長塚節と『白き瓶』
藤沢周平の『白き瓶』を
ようやく読了した。
茨城県国生に生まれ育った
長塚節の短歌にかけた生涯を
綿密な取材と精緻な文章で
克明に描いた骨太の作品である。
正岡子規を師事して
根岸短歌会に加わり、
伊藤左千夫らと
『馬酔木』を立ち上げた。
感性豊かな真摯な歌人が
結核を煩い37歳で逝去する。
万葉集の和歌を研究し、
子規から写生を教授され、
自分の歌を模索した。
病身になってから恋をし、
失恋の傷手と旅での思い、
自然を愛する心で歌を綴った。
余命が宣告されてからの
『鍼の如く』の短歌集は
儚さと哀惜と叙情が満ち溢れた
長塚節の最高傑作となる。
その一つを藤沢周平は
この本の題名に用いるのだ。
「白埴の瓶こそよけれ霧ながら
つめたき水くみにけり」
長塚節が友人、平福百穂の
秋海棠の画につけた歌である。
己の清潔な性格と壊れやすい体を
白き瓶に投影していたのではないか、
藤沢周平はそう思ったようである。
長塚節は生涯、孤高の人であった。