定時制生徒との秘密

ぼくが通っていた
都立高校には定時制があった。
昼の全日制の生徒と
夜の定時制の生徒は同じ教室、
同じ机を使っている。

勉強に飽きていた
ぼくは授業中によく
絵を描いていた。
数ⅡBや物理など、
全くわからなかったから。

抽象画のような
わけのわからない絵を描き、
机に入れたままだった。
それを定時制の生徒が見て、
ぼくの絵に描き加えていた。

翌日机の中の自分の絵を
たまたま見て気付いたのだ。
どんな生徒が描き加えたのか?
男子か女子か?
想像は膨らむばかりだ。

それから絵を描いたら
机の中に入れておいた。
するとやはり線などが
書き加えられていた。
二人だけのお互いの秘密。

このことをぼくはなぜか
誰にも話さなかった。
ふたりだけの大事な秘密、
馬鹿馬鹿しいけどそう思った。
やりとりは何回かあった。

結局、会わず仕舞いで
ぼくは卒業してしまった。
その人は定時制だから、まだ
現役高校生を続けたかもしれない。
そんなことをテレビドラマ、
「宙わたる教室」で思いだした。