テンペスト
妻が電子ピアノで
ベートーヴェンの
ピアノソナタ17番、
「テンペスト」を
ゆっくり弾いている。
「楽譜のテンポは
もっと速いのだけど、
それでは弾けないの」
妻はそう言うが、僕は
遅いほうが好きだ。
「テンペスト」は
嵐の意味である。
シェークスピアの戯曲に
ベートーヴェンが
インスパイアされたのだ。
嵐であれば速いテンポで
激しく弾くのが
正しいのかも知れない。
ポリーニや辻井伸行は
鬼気迫る早弾きである。
でも僕はゆったりめの
「テンペスト」が好きだ。
特に有名な第三楽章は
16分音符を情感を込めて
美しく強く弾いて欲しい。
この曲を作った当時、
ベートーヴェンは
耳が聞こえにくくなり、
絶望の淵で自殺まで考えた。
嵐のような状況の中で
安息を求めたのではないか。
そう思えてならないのだ。