島田荘司作オペラ「黒船〜阿部正弘と謹子」_2023年2月27日
リアンナ・アヴデーエワのピアノ演奏会を聴いた翌日、2023年2月27日に本格ミステリ界の大家、島田荘司先生によるオペラ「黒船〜阿部正弘と謹子」福山公演のアリアを映像で鑑賞しました!
■オペラ「黒船」あらすじ
大雑把に「あらすじ」を書かせていただくと、
舞台は江戸時代末期である嘉永6年(1853年)。備後国福山藩の第7代藩主である阿部 正弘は、江戸幕府の事実上の執政として幕政を主導。ペリー来航による幕末の動乱期にあって安政の改革を断行する様を、妻の謹子(越前福井藩主松平治好の次女)との出会いや死別とともに、丹念に描く物語。主導者としての正弘と人間としての正弘とが交差する、切なくも力強いオペラ(アリア)でした。
■初体験! 和装の村上敏明さん(テノール)を聴く
この日に聴いたのは、日本最高のテノール歌手の1人である、村上敏明さんを筆頭にオペラ歌手総勢8名が歌うアリアでした。
主役である村上さんのテノールは、つい先日も大ッッッ好きなオペラ「ホフマン物語」(オッフェンバック作)のナタナエルで聴いたばかり!
ほかにも、2017年4月には個人的に不思議な縁を感じる特別な「オテロ」(ヴェルディ作)のロデリーゴ。
18年4月には製作費に3億円かかるといわれる最高峰のオペラ「アイーダ」(ヴェルディ作)の伝令。
19年4月には大好きなジャコモ・プッチーニの1幕もの「ジャンニ・スキッキ」で、フィレンツェの大富豪の遺産相続のごたごたを、田舎者だが機転の利くジャンニ・スキッキに相談するリヌッチョ役と、様々聴いており、とりわけ
21年3月に、人生が変わったかと思うほどのワーグナーの「ワルキューレ」のジークムント(1幕)は、大変印象に残っています。
とはいえ和装の村上さんを拝見するのは初めて。
母国語で鑑賞するオペラも「夕鶴」や「紫苑物語」、こんにゃく座の公演以外には知らないので、とても新鮮でした(2007年頃に新国立劇場で上演された「黒船」(山田耕筰 作)は鑑賞していないのです)。
他のキャストのみなさんの和装も、シーンに合わせて華やかだったり凛としていたり。娘たちが歌うアリアは可憐で楽しく、思わず踊り出したくなるようでした!
わずかでも母国の歴史についての知識や土地勘があるだけで、こんなにすんなりと心に入って、わくわくするものかと改めて驚きました。
■胸を打ち、身をちぎられるようなアリア「武器をとれ」
「黒船」のアリアのタイトルは記憶に頼っているので、正確でなく申し訳ないのですが、
阿部正弘の妻謹子が歌うアリア【銀の小舟】は美しく、凛とした強さを感じました。責任ある立場の夫を前に、自分は強くなると誓う。
「あなたを乗せて夜の海を渡る銀の小舟になります」という歌詞は、その後の国防の場面でも、二重奏で遠くから聴こえてくるかのように、ずっと心に残っていました。
ペリー来航に際し、命をかけて国を守ると部下とともに志を新たにする、正弘たちのアリア【武器をとれ】も好きで、全身全霊で使命をまっとうしようとする戦いの裏に、謹子の歌声も流れているよう。まるで身をちぎられるように聴きました。
病により先だった謹子を想い憔悴する正弘を気遣う侍女のアリア【水仙のうた】は、その健気さに涙がにじみました。
「謹子様をお慕いする気持ちは誰にも負けません」と断言した上で、だからこそ今の正弘の姿は見ていられないと、新しい妻を娶ることを薦める侍女のまっすぐな心は、本当に水仙のようです。
決して大輪のバラのように表に立つ花ではないかもしれない。ときに雨風により折れてしまう繊細な水仙の花。それでいて自らまっすぐに立ち、常に豊かな香りで人を包み込んで静かに癒す、水仙の力---。
(タイトルを失念してしまって書けないのが残念なのですが、重厚感のあるソプラノの曲もとても素敵でした)
■”一流”テノールの影の努力と、十人十色(10/16)の上演予定
映像鑑賞会ではスピーカーに配慮されていたものの、村上さんの立体的なベルカントは機材がハウリングを起こしてしまうほどの迫力でした。
映像を通して聴けば聴くほど、やはり生の舞台で鑑賞したい気持ちが強まります。
島田先生に伺ったのですが、村上さんはアリア演奏会の前夜も、歌詞を手で書き写して心身に沁み込ませていたのだそう。
ただ覚えるだけでなく、正弘のアリアを自分のものにするために努力を惜しまない、”一流”の持つ影の姿にも大変、感銘を受けました。
だからこそ、聴く者の皮膚の内側に想念を呼び起こす歌声が生まれるのでしょう。
「黒船」は2023年10月16日に、渋谷区文化総合センター大和田さくらホールで上演されるそうです。日程は十人十色(10/16)と語呂合わせで覚えました(#^^#) ダイバーシティが推奨される現代にピッタリな日取りですね。
アリアの上演会は、島田先生の小説を映画「乱歩の幻影」として撮影される映画監督、秋山純さんのあたたかいもてなしや、ご自身も出演されていた村松茂紀さんのきめ細やかなフォローのお陰様で和やかに進みました。
上映前にLIVE演奏された、映画「乱歩の幻影」の挿入歌3曲も楽しく、二期会の志摩大喜さんの軽やかな歌声は、浅草オペラを彷彿とさせるものでした。
演奏はN響のヴァイオリニスト高井敏弘さんと、ゲーム音楽を手掛けていらっしゃる作曲編曲家の中山博之さんのピアノ。2、3メートルほどの至近距離でN響のヴァイオリニストの演奏を聴くことなどまずないので、美しい移弦を不躾にも凝視してしまいました(笑)。
来場客の方々も親切で穏やかな方々で楽しかったのですが、とりわけオペラ歌手のみなさんが気さくに接してくださったことに驚き、感動しました!
稚拙な表現で恐縮なのですが、
島田先生に
「あの方、すごい方なのに威張らなくて素敵ですね」と言ったところ、
「一流とは、そういうものですよ」と教えてくださいました。
何より、島田先生こそが全ての人の才能に敬意をもって、あたたかく受け入れ、素晴らしい作品のみならず、心理的安全性や楽しい空気をつくってくださったことに震えた日でした。
何しろ、本当に楽しかったのです!
私は、詳しくないもののオペラが大好きなので、生で「黒船」を拝聴できる秋の日が今からとても楽しみです!
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