ボストンで勉強したこと 8
日本でマクロビオティックが注目され始めたのは、健康増進というよりは、主にダイエット効果が期待できたからではないでしょうか。飽食の国ニッポンでは、次々にダイエットブームが起きて、あれを食べればやせる、それを飲んだらやせると、とりあえず「何かを口にする」ことでやせようとするダイエットが興亡している気がします。食べなきゃ簡単にやせるのに?って思いますけど、それは言ってはいけない言葉のようです。すみません。
ではマクロビオティックの人たちは、やせていたか?というと、実はほとんどの人が確かにやせていました。久司ファミリーはもちろんのこと、わたしがいたスタディハウスでも、肥満の人は一人もいませんでした。むしろ、もう少し太った方が健康的なのでは?という人は、わたし自身も含め何人か いました。
久司さんが年に数回、アメリカ各地や海外で催していて、話題にも評判にもなっていた「Cancer and Diet」という講演会と相談会には、ガンの患者さんはもちろんのこと、肥満に悩む方々も来場していました。アメリカ人の肥満は、日本人のそれとは比較できないレベルの肥満でした。たまたま、わたしたちがボストンにいた時も、そのイベントは開催され、たくさんの人が来場していました。夫は映像作家でもあったので、久司さんに会期中の撮影を 任され、イベントの様子をずっと撮影していましたから、わたしもアシスタントということで、会場には出入りしていました。
久司さんは、わたしから見たら、常にジェントルマンだったし尊敬できる人でした。ただ有名人の常として、多少のゴシップがあることは、マクロビオティック村の噂の中で知っていました。それは、いつの時代でもどこでも 誰でも、有名であることと引き換えに「おまけ」のようにくっついてくる種類のあれやこれやでした。誰かに光が当たれば、その分影も濃くなるように、注目を浴びれば、批判や中傷を受けることは「有名税」のように発生するものなんだろうなというのが、当時も今も変わらない、わたしの受け止め方です。
そもそも、たった三ヶ月しか滞在しない我々に、ゴシップのいちいちを検証するヒマもなく、必要性も感じなかったので、真偽のほどはわかりません。ただ、たとえば「Cancer and Diet」の会場で、自分の病気について訴え、救いを求める人々に対して、久司さんが誠心誠意寄り添い、助言し、励ます姿は、やはり感動的でした。
スタディハウスにも、ものすごく顔色の悪いポルトガル人女性がいて、親しくなってから「ガンなの…かなり悪いの」と打ち明けられました。医療では、もう限界と言われて、マクロビオティックの食養に賭けたのだと思います。優しそうな旦那さんと一緒に、我々とほぼ同じ時期滞在し、その後ポルトガルに帰国し、わたしたちが渡欧した時、ラゴスにあった彼女の別荘で 再会を果たし、日に焼けて、とても元気になっていて、びっくりしたことを覚えています。彼女とは不思議な縁があり、我々がフランスに一ヶ月ほど 滞在していた時期に久司さんの「Cancer and Diet」のイベントがパリでも 開催され、そこでまた彼女に再会し、いっしょにセーヌ下りの船に乗って 観光したりしました。
その後もクリスマスカードのやりとりなどを続けていましたが、数年後、旦那さんから亡くなったという手紙をもらいました。マクロビオティックで ガンを消すことはできなかったけれど、発病してからの数年間を家族に支えられながら、なんとか元気で楽しく過ごせていたことは、本当によかったなと思いました。
マクロビオティックの食事を厳密に実践すると、肉類はもちろんのこと、乳製品も卵も食べません。そんな玄米と野菜だけで、こどもを育てて大丈夫なの?絶対栄養失調になるわという、不安の声を聞きますが、大丈夫です。写真は、スタディハウスのマクロビオティック育ちの3兄弟ですが、まるまるして、恐ろしく元気一杯なんです。その並外れたパワーと運動能力は、たまにシッターをしていたわたしが保証します。