One day
スマホのアラームが1kのアパートのロフトに響き渡る。
時刻は午前8時。日曜にしては早起きだ。
隣には枕に顔を埋めて寝息を立てる彼女の姿。
華奢な身体でブラを肩にかけただけのその様子はこの時間にはあまりにも刺激が強すぎた。
「…もうちょっと寝るか」
目が覚めるとスマホは午前10時を示していた。
「ねぼすけさん、起きましたか?」
寝ぼけ眼を擦ると抽象画のような寝癖を拵えた彼女がいたずらな笑みを浮かべていた。
「昨日はすごかったね。足痛いよー」
からかうようにそう言って俺にキスをする。ようやく俺も夢から覚める。
「…飯、なにがいい?」
「お米あったよね?インスタントのお味噌汁もあった。今お湯沸かしてるよ!汚い顔早く洗っておいでよ」
なんでも言える関係とはいえ限度があると思いながら洗面所でばしゃばしゃと乱暴に洗顔をして、ようやく脳が仕事をし始めた。俺は今埼玉に住んでて、彼女が泊まりに来てて、久々にセックスして寝落ちして…今か。
カタカタと震えていたケトルがカチッと音を鳴らして静止する。お湯が沸いたみたい。
「なんか一品作るよ。オムレツとかどう?俺得意だし。」
「ご飯とお味噌汁にがあるのにオムレツ作るの?まぁ2品じゃちょっと足りないかもしれないけど。」
「出汁と醤油入れて焼いたらあら不思議、和風オムレツの完成ですよ、お嬢さん。」
「つまりだし巻き玉子ってこと?」
「和風オムレツね!?」
なんでもいーから早く作って!と急かされてそそくさと冷蔵庫を確認する。卵は4個か…後で買わないとな。
卵2個をボウルに割入れ、出汁、醤油、砂糖を適当に加えてフライパンに点火。温まるのを待つ。
学生時代にバイトをしていたオムライスチェーン店での経験を引っ張り出して調理開始。液卵は強火で──菜箸は外側から内側へ動かす──同時にフライパンは揺らす───
カンを頼りに作り上げた和風オムレツは、奇しくも実家の味を完璧に再現していた。
「「いただきます」」
「ほんと、卵の扱い上手いよね。めちゃくちゃ美味しいよこのだし巻き玉子!」
「和風オムレツって言ってんじゃん!」
「あ!ねーねー今日の夜ご飯唐揚げがいい!」
「朝から夜の話すんな!」
時刻は正午を回っていた。6畳のリビングに食器のカチャカチャとぶつかる音と2人の笑い声が響く。
「「あ、そーいえばさ…」」
そんな、よくあるある日の話。
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