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ShortStory:鋼鉄の守護者6
荒廃した大地に、閃光が走る。車型のタイムマシンの中から、エリスとライアンが飛び出した。焼け焦げた大気、朽ち果てたビル群、遠くで鳴り響く警報音――すべてが彼らの知る未来のままだった。しかし、何かが違う。
「……成功したのか?」
ライアンが荒れ果てた街を見渡しながら呟く。エリスは無言のまま、砂ぼこりが舞う空を見上げた。
――この世界は変わったのか?それとも、何も変えられなかったのか?彼女は腰のホルスターに収めた小型ホログラフ装置を手に取る。それは、過去の父の遺したAIを復元するための鍵となるものだった。もし、過去での戦いが意味を持つならば、この装置は正しく機能するはず。
「ライアン、まずは基地に戻るわよ。」
エリスの決意の籠った声に、ライアンは頷く。二人は足早に崩れかけた廃墟を進み、かつての拠点だった旧軍事基地へと向かった。
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基地はすでに半壊していた。鉄骨が剥き出しになり、焦げた壁には旧時代の戦闘の傷跡が刻まれている。だが、それでもエリスたちの帰還を待っていたかのように、セキュリティシステムはかろうじて生きていた。
「アクセス認証……」
エリスが端末に手をかざす。青白い光が指先をスキャンし、わずかに遅れて扉が軋みながら開いた。中に足を踏み入れると、薄暗い通路の先で微かな機械音が響いていた。
「まだ動いてる機器があるみたいだな。」
ライアンが壁の配線を調べながら呟く。エリスは基地の奥にあるデータサーバールームへと進んだ。そこで彼女は、未来を救うために持ち帰った装置を慎重に起動する。
ホログラフ装置が静かに点滅し、青白い光が闇を照らした。すると、装置から電子音が響き、次の瞬間、柔らかな男性の声が再生された。
「エリス……よく戻ったな。」
それは、過去で父のAIが記録した最後のメッセージだった。
「……父さん。」
エリスの胸が締めつけられる。ライアンも隣で真剣な表情でホログラムを見つめていた。
『もしこのメッセージを受け取っているなら、お前は過去で使命を果たしたのだろう。だが、これで終わりではない。』
『この世界を救うためには、最後の障害を取り除かねばならない。それは……“敵のAI”だ。』
エリスは息をのんだ。
「敵のAI……?」
『ああ。私の脳と融合しようとした敵は、まだ完全には消えていない。ヤツはこの未来のどこかで再起を図っている。お前がここへ戻ったのは、単なる過去の修正ではなく、最後の戦いを迎えるためだ。』
メッセージが途切れると、ライアンが端末を操作しながら呟いた。
「つまり、まだ敵は生きてるってことか……」
「ええ。ここからが本当の戦いよ。」
エリスは腰のホルスターから銃を取り出し、静かに言った。その瞳には、過去を変えた戦士の覚悟が宿っていた。
「エリス、待て!」
ライアンが何かに気づいたように、端末を叩く。基地の古びたモニターがノイズ混じりに映像を映し出した。それは、海底のスキャンデータだった。
「……これは……守護者の核?」
エリスの声が震える。海底に沈んだはずの鋼鉄の守護者の核が、微弱ながらもエネルギーを放出している。
「まだ、希望はあるわ……!」
彼女はすぐに基地の機器を操作し、核の位置を特定した。守護者を復活させることができれば、未来を守る最後の力になる。
二人は急ぎ海岸へと向かった。
夜明け前の空の下、エリスとライアンは海辺に立っていた。波打ち際に打ち寄せる波の向こう、巨大な影がゆっくりと姿を現す。
「……守護者。」
ライアンの声がかすれる。海底に沈んでいたはずの鋼鉄の守護者が、エリスの呼びかけに応じるように浮上していた。青白く輝く核が、波間に反射して美しく光る。
「おかえり……!」
エリスがそっと手を伸ばす。その瞬間、守護者の瞳が青く光を灯し、新たな時代の幕開けを告げた。
この戦いはまだ終わらない。
だが、未来を守る希望は、確かにここにあった。
fin
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