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ShortStory:鋼鉄の守護者3

冷たい風が森を通り抜け、巨大な木々に囲まれた鳥居の周囲には、神秘的な静けさが漂っていた。その鳥居の向こうには、磨き抜かれた金属の装甲が基地内のライトを反射する巨大なロボットが先ほどの戦闘が嘘ように静かに佇んでいた。足元にはわずかな光の波紋が広がっている。
エリスは、未来の荒廃からこの場所へとやってきた。ふと鳥居の前で立ち止まった。先へ進む仲間の向こう、守護者と呼ばれるその機体を見上げ、数時間前の出来事を思い出していた。

未来の荒廃した世界から、過去へと送り込まれたエリスとライアン。それぞれ異なるタイムマシンでこの静かな川辺の町へ到着する計画だった。

ライアンが白い車型のタイムマシンで過去に到着したとき、空中には未来技術を持つ敵のドローンが飛び交い、さらに巨大なロボットがその敵と激しい戦闘を繰り広げていた。巨大ロボットは、後に「鋼鉄の守護者」と呼ばれる存在だったが、この時代ではまだその名を知られていない。
「なんてこった……危険すぎる。」
ライアンはタイムマシンを急いで降り、近くの安全な場所に避難することを決めた。草むらに身を潜めながら、彼は戦闘の様子を見守った。
巨大ロボットの動きは圧倒的だった。洗練された動きで敵ドローンを次々と撃破していく。その威力と精密さに、ライアンは目を見張った。

その頃、エリスが赤い車型のタイムマシンで過去に到着する。
「到着地点に誤差が出るなんて……。」
彼女は周囲を見回したが、隣に到着するはずだったライアンのタイムマシンの姿が見当たらない。
「仲間は……どこ?」
エリスにとってライアンは単なる仲間ではなかった。未来を救うためのプログラムを唯一扱える天才エンジニアであり、彼の存在はミッションの成功そのものを意味していた。彼女はライアンの不在がこの旅全体を脅かすことを理解し、胸の奥に不安が広がるのを感じた。
タイムマシンのコンピュータが警告音を発し、彼女の手元にデータが表示される。白い車は確かにこの場所に到着していたが、既に数時間が経過しているらしい。車は無人で残されており、仲間の姿はどこにもない。
ふと目を上げたその時、エリスの視界に鋼鉄の守護者の巨大な影が飛び込んできた。青空を反射する装甲と威厳ある佇まいは、未来で見た姿とは違い輝いていた。
「父さん……あなたの作った守護者が、こんなにも美しい姿でここにいるなんて……」
彼女は息を飲み、その存在に引き寄せられるように一歩前へ進んだ。そして、守護者が彼女を認識したかのように目を輝かせた瞬間、エリスは守護者にアクセスを試みる決意を固めた。ホログラフの画面に映る幾何学的なシンボルの中から、父の声を聞いた。未来から来た事実を語り、父のプログラムが組み込まれた守護者のAIに目的を伝えた瞬間、敵の接近が感知される。エリスは即座に守護者を操作し、二人の連携で、襲ってきた敵は撃退された。

「ライアン、どこにいるの?」
エリスは戦闘が終わった後、守護者と共に周囲を探索し始めた。タイムマシンの痕跡を辿り、森の奥深くに進んでいく。
「エリス、落ち着いて。周囲をスキャンする。」
父の声が守護者のシステムを通じて響く。未来で停止してしまった父のプログラムが組み込まれたAIが、過去の守護者を通じて再びエリスを助けていた。
「父さん、どうして未来では応答しなかったの……?」
その疑問を抱きながらも、彼女は父の誘導に従い、ライアンの隠れ場所を見つけることに成功した。倒木の陰に身を潜めるライアンを見つけたエリスは、ほっと安堵の表情を浮かべる。
「エリス、遅いぞ!」
「あら余裕ね?」

過去の守護者のシステムを通じた父の誘導によって、エリスとライアンは巨大ロボットの地下格納庫がある神社に辿り着いた。鳥居の向こうには、格納庫が地下から上がり扉を開いているのが見える。
「これが……この時代の守護者。」ライアンが隣でつぶやき、続けて言った。
「この守護者の中に隠されている未来を救うプログラムを探し出し、未来に転送しないといけない。時間がない、急ごう。」
エリスは頷き、目の前の光景に集中した。しかし、ふと疑問が胸をよぎる。
「待って。父の声……どうして過去にも聞こえるの?」
未来から来た彼女の記憶では、この時代には父はまだ生きているはずだった。だが、鳥居の向こうで響く声は、間違いなくAIとしての父だった。
「どういうこと……?」
その疑問が脳裏をかすめた瞬間、頭に鋭い痛みが走る。
「エリス、大丈夫か?」
ライアンの声が遠のき、彼女は膝をつく。鳥居の前に広がる森の静けさの中、エリスは思考の深淵へと引きずり込まれていった。
「父さん……本当は何を隠しているの……?」
遠ざかる意識の中、その瞳には、未だ解明されていない謎への決意が宿っていた。

fin


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