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『よだかの片思い』読後感想

『よだかの片思い』:集英社
著者:島本理生

トークイベントに参加するにあたって、久しぶりに島本さんの本を読んだ。
『ファーストラブ』などを読んだのは何年か前。

顔に痣のある、大学院生のアイコ。生まれた時からある痣に対して、アイコ自身は、幼い頃はコンプレックスは無かった。しかし、小学校の低学年の時の出来事をきっかけに、コンプレックスを抱くように。それは、担任の善意の一声であったが、それをきっかけに、他者から認識される自分、と言うことを考えるようになる。

それは、自分と自分以外の人に対して知らず知らずに線を引いているようなことでもある。

大好きだった祖父は痣を気にしていない、と思っていたが、実は心配して神社にもお参りしていた事実を、大人になって(祖父が亡くなってから)聞く。
それは、アイコにとって衝撃であり、祖父への感謝の気持ちが更に芽生えたことだったと思う。

そして大人が子供に見せる顔がすべてではないことをアイコは知る。
当たり前と言えば当たり前なのだが、子ども時代は見えているものが全てであると思いがちだ。(子供だけに限らず、人は見えているものに囚われがちであるが)
人には見えていない別の面がある、それを考えずに育つことが出来たアイコは、家族からの真っ直ぐな愛情を受けて育ったとも言える。

作品名に片思い、とあるが、実際はアイコは飛坂という、若い映画監督と付き合うことになり、両想いに近い状態になる。
しかし、アイコの会いたいという気持ちの密度と飛坂の思いの密度はイコールではない。そういった意味で「片思い」、と表現しているのかもしれない。

自分が相手を思う同じタイミングで、同じ感情の量をお互いに渡しあえることは、現実でもあまりない気がする。どちらかの思いが大なり小なり重かったり軽かったりするのだ。

研究職(学生ではあるが)と映画監督という、生きている世界が違う者同士でも、強く「会いたい」と思えて、そう言える相手に出会え、短くてもそういう関係性を持てたことは幸せなことだと思う。それが初恋なら尚更だ。

そういう意味でも幸せな片思いのお話だと思う。


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