【インドネシア教育ツアー】DAY3 SDHを訪問しました!
3日目はチカランの学校訪問
SDH(スコラ・ディアン・ハラパン)を訪問
今回の旅の目玉であるSDH訪問。
SDHとはスコラ・ディアン・ハラパンの略で、幼稚園から高校まである私立大学の付属学校です。
プロジェクト型の学習をコロナ以前からルーブリック評価をしながらきちんと行なっている学校です。
SDHについて以前に書いた記事はこちら↓
5年ぶりの訪問です!以前あった壁面の時計がなくなっていますね。
2018年と比較したら壁面も白っぽくなりました。
SDH (スコラ ディアン ハラパンチカラン)はYPPH財団(Yayasan Pendidikan Pelita Harapan(ヤヤサンペンディディカンペリタハラパン))のグループ校です。
このYPPH財団は、教育水準の向上とキリスト教教育を行うために二人のビジネスマンが作った学校法人です。ペリタ・ハラパン大学(私立大学)を中心に60以上の学校を経営しています。創設者は成功したビジネスマンであった故ヨハネス゠オエントロ氏・ジェームズ゠リアディ氏。この2人の創設者が1993年に作ったのがYPPH財団です。彼らはインドネシアの子どもたちのために、キリスト教主義で、質の高い教育が受けられる3つの異なる学校を作ろうとしました。
系列の学校は以下の通り。
これらの学校はYPPH財団のもとで、目標校数に向かって毎年増設されています。(2018年に視察に来た時よりも増えていました。)
最初に会議室に集まり、自己紹介や学校紹介を行いました。
説明の中心は5年前の訪問でもお世話になった、ベラ先生。
SDH(もしくはSDHの属している財団)の秀逸なところは、その組織が共有するビジョンが明確なこと、学校全体(全教員)が一つの方向にしっかり目線を合わせて教育をしていること、そして組織が一体となって行っている教員研修システムにあります。
SDHに限らず、財団の系列の学校の教員はUPH(財団が経営する大学)の出身です。
つまり財団が目指す方向に対して必要なトレーニングを受けた大学の卒業生を、財団の系列の学校に配置しているということ。そのため全体的に教員は若く、大学院まで出ている教員が多くレベルも高い。
校長のような管理職も持ち回りで行われます。前回の2018年に校長だったルディー先生は、現在高校の担任でした。つまり学校経営の感覚を持った教員が学校内にたくさんいて現場で活躍している、というのはすごいことだと思います。
2020年の休校対策
SDHはインドネシア国内でもいち早く休校を実施し、オンラインの学びを進めました。しかも生徒のみならず教員も全員在宅で勤務を行いました。
システムはMicrosoft Educationを使用。従来は保護者とのコミュニケーションのためのみに使用していたこのシステムでTeamsを使ってどのようにオンラインで学びを進めるのか、わずか2日ですべてのカリキュラムを完成させていきます。
こうしてオンラインで時間割(7:00-15:30)通り学びを進めていくことが始まりました。
Teamsをオンラインクラスルームとし、生徒、保護者、教師にマニュアルビデオを送信。
インドネシア政府もパンデミック用のカリキュラムを制作し、それまでのカリキュラムを見直すきっかけとなりました。従来の知識重視から汎用的スキル・人格形成・思考判断力の育成へとシフトするのです。
政府は全国の全教員・生徒にGoogleアカウントを配布。Googleクラスルームを使用することとなりました。(SDHはMicrosoftのシステムをすでに使っていたため、Googleは使わずそのままMicrosoftで継続。)
インドネシアのすごいところはこれからです。日本はわずか数か月で休校期間が終わったのですが、インドネシアはそのまま休校2年目に突入します。
休校2年目になると、教員は学校に出勤してオンライン対応するようになりました。
各クラスにカメラを設置し、カメラが教員の動きをフォローするシステムが確立。通常授業をオンライン配信することが容易になりました。(SDHは教科センター方式のためこの方法を実現することが容易だったと思われる。)
その後(インドネシアの休校は23か月続いた)以下の条件を満たした生徒は登校することが可能となります。
つまりこの段階はハイブリッド教育。通常の学校教区とオンライン教育の両方が実施されました。
そして現在では100%の生徒が登校しています。
もちろんSDHのようにオンライン化に成功した学校ばかりではなく、日本ほどではないものの保護者の収入や都市と田舎の差など生徒の受けた影響は異なるようです。
ただ23か月間オンライン授業を継続したインドネシアのデジタル力や学校・教員の力は日本と比べても驚くべきものがあります。
SDHの様子
グループに分かれて学校見学を行いました。
集会が行われるホール。
図書室。
蔵書数は日本に比べると少ないですが、 電子書籍の所有数が膨大でデジタルでも本を借りることができます。
ここでは直近の生徒の卒業研究論文を見ることもできます。
高校の授業を見学。
ルーブリックが事前に提示され、探究活動が始まっていきます。
理科の教室
コンピュータ教室
インドネシアの体育館は必ず外にあります。
学食も整備されています。たくさんのお店が並ぶフードコートのような環境。
パンデミックにより何が変わったか?
SDHはパンデミックにより、それまでは考えていなかったオンライン授業システムとスマートクラスを実現しました。
授業のみならず図書館もデジタル化され、多くの電子書籍が用意されました。
またアットコネクトというアプリを導入し、生徒・保護者・教員で活用しています。教員は授業計画をこのアプリで作成し、生徒は宿題などのをアクセスして知ることができます。また保護者は生徒のテストの点数や成績をみることができます。
SDHはなぜパンデミックを乗り切ることができたのか?
日本人参加者の中から「日本ではオンライン教育や新しい学びをやりたくてもできない状況にあった。SDHには反対派はいなかったのか?」という質問が出ました。
それに対するSDHの返答。
「教員は学校のポリシーに従う義務がある。できない教員がいればできる教員がサポートする。」というもの。
うーん、確かにその通り。でもできない教員のサポートが大変なんだ、と日本人たちがつぶやく。
SDH「できるようにしなくてはいけない。SDHの研修は、大学や他校も含んだ財団で考えられています。そのための教員研修は週1回必ず実施されています。また教科横断型の授業を行っているため、学年が始まる前の1週間は全教員で毎回研修を行い、1年間の他教科とのコラボを決定してきた経緯もあります。」
なるほど、このように学校全体が一つの方向に向かって常に研修を行い実施するマインドがあるのかー。
SDH「また政府が実施する統一テストもあります。(小5・中2・高2)。このテストの目的は学校評価。教員も常に授業力のみならずどのような論文を書いてきたかなどの教科専門性などを国によって評価されています。だから一部の教員ができない、とわがままをいうことができない仕組みになっています。」
インドネシアの教員は放課後が長く、授業のみを担当します。その分、専門性を磨いたり、新しい学びに対して研修・実施する時間を確保することができるんですね。
SDH「大学入試システムも変わりました。それまでの英語・数学・国語・理科などの入試から、英語と国語の論文、数学のテスト、IQテスト(論理的思考・性格判断)にかわりました。これに高校時代にどのようなPBL(プロジェクト型学習)や探究を行ってきたかが問われます。」
SDHの強み
SDHの強みは何といっても組織力。財団全体で決定している教育に対するビジョンが明確なこと。そしてビジョンを実行する組織がしっかりとしていて、ビジョンを実行するための研修もきちんとプログラムされていること。
パンデミックのような緊急時代だからこそ、このようなぶれないビジョンや組織力が大きな成果を生んできたと思います。
また財団全体でいち早く世界の教育のトレンドを把握し、インドネシア流にアレンジ・実施してきたこと。少なくとも2008年よりも早くにPBL(プロジェクト型学習)を導入したり、教科横断型の学習、ルーブリックによる評価などを他校に先駆けて行ってきました。(コロナ前の2018年に視察した段階ですでに実施・確立されていました。)この方針を政府が後追いする形になったため、SDHの教育のすごさが際立った感じがします。
翻って日本の教育。GIGAスクール構想やその影響で世界で初めて小学生から高校生までの全児童・生徒が一人一台端末を持った日本。このパワーとコスト(金額・時間)は莫大だったと思います。世界に先駆けて大きく教育のインフラを整備した日本ですが、この端末をどのように活用していくのかが次の大きな課題です。
各学校や自治体は新しい学びに向かった教員研修をきちんと行うことができているのか。
各学校や自治体は明確なビジョンを持ち、全教員や生徒・保護者とそのビジョンを共有できているのか。
そして全教員は、未来の世界で戦うための力を養う新しい学びを行う決意をもっているのか。
日本の教育はこれらが試されるフェーズへと移っています。
世界レベルの教育改革を行うインドネシア。
真価が問われている日本教育。
インドネシアの教育に学ぶべきたくさんのヒントがあることを痛感しました。
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