フーコック島の一番搾りヌックマム43°N
昨年末、20年ぶりにベトナムを訪ねることができ、最近やたらリゾートとして盛り上がっているらしいフーコック島に行きました。
フーコックといえば、ヌックマムの本場。町の中華スーパーにあるfish sauceにもよくフーコックと書いてありますが、これは実は90%が偽物で、その多くが中国またはタイ産だそうです。海外市場はもとより、ベトナム国内でも偽物が氾濫していて、ベトナム工業省もその対策に頭が痛いらしいのですが、今回せっかくフーコックくんだりまで行ったのだから、頑張って本場の本物をゲットしよう!と、地元のヌックマム工場を探して足を運んでみました。
魚醤は、タイではナンプラー、フィリピンではパティス、中国ではユーロー(魚露)、イタリアではガルム(テルマエロマエにも出て来ますね)日本では、しょっつる、いしりなどと呼ばれてますね。基本、イワシなどの魚に塩をして発酵させたその上澄みです。古代製法を守っているところでは基本8ヶ月から1年かけて発酵(温暖な南ベトナムの場合)だそうです。
巨大な木樽が並びます
でたー。どーんと手作業!
私の母親の実家は醤油屋だったので、その当時(40年前?)は、こうやってホースで入れてましたが、いまどきここまで手作業とはとても新鮮でした、、、
今詰めているのは一番搾りですが、絞った後にまた食塩水をいれ、を何度も繰り返して二番搾り、三番搾りも作られ、低グレードで安価な製品として出荷されます。二番三番はおもに加熱料理で使うそうです。
ベトナム人は男はだらだらして働かず、女性がその分働き一家を支えると昔からいわれますが、まさにその通りに見える風景、、、
とても昔懐かしい感じの風景があちこちに残っている工場でした。
工場の裏がすぐ川でここから船で出荷するそうです。
さて、これが工場でつくられるニョックマムです。瓶に書かれている数字30°Nとか40°Nは全窒素量(N値)とよばれ、ヌックマムに含まれる旨み成分、すなわちグルタミン酸やコハク酸などの各種アミノ酸の窒素の重量比を表しています。(本来は重量比でg/kgであるべきですが、g/Lという表記も混在しています。ベトナムでも日本でも。)
ベトナムの標準品質局の規定によると、30°N以上のものは特級品、25°N以上は上級品、15°N以上は一級品、10°N以上は二級品と規定されているそうです。ちまたによくある表示がない普及品は10°Nとか15°Nのものが多いようです。
比較のためのN値の例としては、日本の濃口醤油がだいたい16°N前後、うまみの強いたまり醤油(原料に小麦を使わないので、香りは弱いがそのぶん旨味が強い)が23°N程度。対して、普通に上級なヌックマムが30°N、超高級品が40°N。一般の店で売っているものでは、40°Nが最高度数らしいく、この工場も、小売店に出荷するのは最高で40°Nだそうです。
で、ここからが本題ですが、この工場で作る最高濃度、かつ一般の店には卸さずここの工場でしか販売しない限定製品でなんと「43°N」という製品がありました!単純計算で、日本のお醤油の2.5倍の旨味成分があるということになります。アミノ酸の内容としては、普通よりコハク酸の比率が高いので、牡蠣とかそっちの旨味に近いはずです。
工場で試飲したんですが、魚醤なのにまったく魚臭くなく、どっちかというとフランスのブルーチーズの方角の味で、これまでタイ(30回以上行きました)を始め、各地でいろんな魚醤を味見して来た私ですが、正直頭をがーんと殴られたように驚愕しました。本当の本当の一番搾りです。
さて、この本物中の本物がフーコック島外でなかなか買えないもう一つの理由が、ベトナムのエアラインがヌックマムを全面機内持ち込み禁止にしていること。(もし機内で破損するとものすごい臭いがすべての荷物につくから、だそうです)日本のガイドブックをみても、ヌックマムは手荷物としても預入荷物としてもどちらもできないので、安易にお土産に買わないように、と書いてあります。そして今でも国営ベトナム航空は一切運んでくれません。
が!昨今どこの国もLCCが進出し競争が大変激しいわけで、ベトナムではビキニ乗務員で有名になったVietJetに聞いたところ、1)瓶ではなくPETボトル 2)頑丈な箱に入れ厳重に梱包する、のを条件に、預け荷物として受け入れOKとのこと!これでホーチミン(旧サイゴン)までの道筋ができまして、大喜びしながら箱詰めしてもらっております。(ホーチミンから先はJALなので大丈夫)
この工場は本当の昔のままの家族経営で、海外発送は一切なし。国内発送も工場に自分できて買った人だけ(通販なし)だそうです。大昔の日本みたいですね。ヤマト運輸やLOHACOにぜひ進出してほしいです。
厳重に箱詰めしてもらって、無事に、フーコック島>ホーチミン>羽田(一部途中下車)>サンフランシスコ、と運ぶことができました。ぜひこの未知の旨みを美味しいもの好きの友人と分かち合いたいと思います。
そしてだれかぜひこの素晴らしい逸品を一般流通させて欲しい。だれもが「いままで魚醤と思って使っていたものはなんだったんだ」と思われるでしょう。
ベトナム食、やはり奥深し。
追記: アメリカ東海岸で本格的なたまり醤油を製造するSan-Jの社長の佐藤さんから、実験的に作った特製たまり醤油の一番搾りのサンプルを送っていただきました。加水率を0.65に抑えて作ってみたら、通常(TN2.2)よりもはるかに濃い旨味のTN3.2 (32°N)まで引き上げることができたそうです。友人とミディアムレアのステーキにつけて味比べして見たら、本当に美味しかった!
こちらも早く製品化してほしいです。
(左からTN 2.2, TN 3.2, TN 4.3となります)
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