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#13 保育者に最も必要なのは「問いの確認」である
〈2024年11月|全文無料公開中〉
保育者に最も必要なのは「問いの確認」であるという仮説があったとする。
「本当にそうなのだろうか?」
今回はこの視点で書いていこうと思う。
はじめに
このタイトルをつけて、早々に思った。
言い過ぎかもしれないと。保育者に大切な要素はたくさんある。「最も」という表現は適さないのかもしれない。
しかし、「問い」にはそのくらいの影響力がある。それもたしかなのである。
問いが変われば思考が変わる。
問いを変えたら行動が変わる。
問いを大切にすると関係性が変わる。
解決すべき課題に直面したとき、その組織(チーム)や個人で、まずどこに着目するか?
方法?
原因?
事実?
どれも大切だが、もしも前提や問いの立て方がズレていたとしたら、残念ながらどれも機能しないだろう。
問いの与える影響の違い
例えば、
クラスの雰囲気がなかなか落ち着かない時期にどんなアプローチがあるかを考えていたとする。ざっくりとしているが、ここから問いの与える影響を見ていこうと思う。
・どんな環境をつくるか?
これは、おそらくアイディアを出しやすいだろう。子どもが興味を持てるような環境をつくっていくことはできそうだ。先生たちの工夫できっと子どもたちは楽しみながら集団での生活に慣れて落ち着いたように見える状態になっていくと思う。
しかし、起点にするには弱い部分がある。それは、つぎはぎだらけのような保育の営みになる可能性があるからだ。アイディアのチャンポンには要注意である。生活の連続性で、少しずつ少しずつ醸成されていくはずの、その子の固有の育ちが阻害されることもあるだろう。
そこで、物事の前提を見る土台がチームにあるかどうか。ここがポイントとなる。
目の前の子どもたちにとって必要な環境の本質は何か 。チームにその共通了解があるかどうかで環境の構成は大きく変わってくる。
落ち着かない背景に何があるか?落ち着くことが目的なのか?など、問いが視野を広げ、前提をとらえることでつくられる違いがある。
問いを確認しようとすることで、新たな問いと対話が生まれ、得た気づきが、子どもの実態に即した、子どもの最善の利益へつながる環境がつくられると言えなくもないだろう。
「どんな環境をつくろう?」だけでは見えづらくなる「何をしないか?」という視点も大事にできるはずだ。
問いが視野を広げる。
今の自分たちの視点や考えの前提には、何があるだろう?
保育者自身も一人ひとりに違いがあることが前提だからこそ、対話により違うままでの共通了解と言える本質は何かを探っていくのである。
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・何をしたら子どもが喜ぶか?
その気持ちや姿勢が大切なことはもちろんだが、子どもが喜ぶ=適したアプローチとは限らないところに保育者の葛藤がある。
子どもを喜ばせようと保育者が頑張ることで、その子ならではの「出会いの感動」が奪われることも。良かれと思って考えたことや準備したことを、自らあえて“批判的”にとらえて検証することも、保育の営みにとって不可欠なプロセスである。(否定や非難ではなく)
保育者の側から見た「もっとこうした方がいいんじゃないか?」を一旦横に置いて、子ども自身に今、何が起こっているか?を観察する。
観察する→仮説を立てる→実践する→検証する→観察する…
(のいえ保育園で観察は、「相手に深く興味をもつ」という意味で使っています。相手に主体のある問いが生まれやすくなります)
その繰り返しが生まれる問いを大切にすることが、子どもから出発する、とことん子どもの側から営む保育につながっていく。
こういったサイクルは、はじめは時間がかかるかもしれないし、現場によっては、そもそも対話の文化がないかもしれない。
勤務時間中にその時間が取れないという実態もあるかもしれないが、問いをちょっと変換するだけで、対話や気づきが自然と生まれ、すきま時間の使い方が変わることもある。
ぱっと見は分からないような、自分の自分たちの、ささやかだけど確かな変化を掴むことがチームのあり方を整えていくのだと思う。
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問いの確認が保育の営みに違いをつくる
次に『問いのデザイン(安斎勇樹・塩瀬隆之著)』にある問いの7つの基本性質を引用しいく。読んでみて、どんな気づきや感じることがありますか?
①問いの設定によって、導かれる答えは変わりうる
②問いは、思考と感情を刺激する
③問いは集団のコミュニケーションを誘発する
④対話を通して問いに向き合う過程で、個人の認識は内省される
⑤対話を通して問いに向き合う過程で、集団の関係性は再構築される
⑥問いは、創造的対話のトリガーになる
⑦問いは、創造的対話を通して、新たな別の問いを生みだす
【創造的対話とは?】
新たな意味やアイデアが創発する対話のこと
そして、問いのデザインでは、問いをこう定義してる。
人々が創造的な対話を通して認識と関係性を編み直すための媒体。
これだけでも、保育者、保育を営むチームにも必要不可欠な性質が「問い」にはあることが分かる。
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正解を知っている保育者と正解を知らない子ども
乳幼児期の子どもは、外の世界について自分なりにとことん知ろうとする。
自ら育つ力と、(本人は意識していないであろう)学びの欲求があるのだ。
瞬間を命いっぱいに生きる子どもたちの生活は、ゆたかさに溢れている。
自分の中に生まれた問いに向き合うとき、子どもの表情に深みが出る。
そんなとき、保育者が正解を知っていたとして、すぐに正解を与えるのか、待つのか、一緒に考えるのか。
これは、その保育現場(チーム)の前提が反映される。
自分や自分たちに、
どんな子ども観があるか?
どんな保育観があるか?
もう少し分割すると、
・「子どもとは?」で思い浮かぶキーワードは何か?
・自分たちの目指す保育でしないことは何か?
・自分たちの目指す保育で欠かせないこと何か?
などの問いが立てられる。
ブレストを用いてできるだけ沢山出してもいいだろう。また、「3つ」など、制限をつけた上で出し、ひとつひとつ「どういうところからそう思ったか?」をチームでシェアすると、気づきが生まれたり、お互いの価値観に触れることで、一人ひとり違いがあるままでも、対話や保育の営みに変化が出てくることがある。
こういった取り組みはやってみて、満足して終わりではもったいない。
少し時間が経つと、必ずズレが生じてくるので、定期的に取り組みことが欠かせない。
問いを立てることで保育の質上げた足立区
問いを立てて、丁寧に見直したことで何が起こったかはまだ未読の方にはぜひ読んで確かめていただきたい。
本書では「成長エンジン」という言葉が出てくる。
問題を可視化し、自ら考え、自ら解決していく力
=「成長エンジン」
子どもだけでなく、保育者にもついている成長エンジン。
問いを立てることで、見たくなかった自分自身の課題に直面することもある。それはなかなかにきつい。
しかし、自分自身の課題に直面しないで気づかないままだったら…
それが、子どもの育つ力や可能性を阻害していたら、子どもにとってマイナスなだけでなく、保育者としてもすごく悲しいし、悔しい。
問いを立てて、適切な問いかを確認して、チームとしての「成長エンジン」を築いていくことで生まれるゆたかさがある。それが巡り巡って、子どもへの貢献や職員のいきいきさにつながるとしたら、それはとても喜ばしく、誇らしいプロセスになるのではないかと思う。
保育現場で醸成されていく文化
文化は一日にしてならず。
あなたの園ではどんな文化を築いていっているだろうか?
のいえ保育園では対話の文化を醸成していくことで、子どもと大人が育ち合う空間づくりを意図している。
生易しいものではない。だからこそ専門性と倫理観を持って私たち保育者は日々、探究と研鑽を重ねていく。
それが、子どもの今と未来にとって豊かな環境へとつながっていく。
巡り巡って社会の今と未来への貢献となる。
1人ひとりの子どもの「今、この瞬間」を尊重することで社会の未来が豊かになっていくとも言える。
子どもの育ちは、中長期的な視点で見れば、個人の人生だけでなく、社会の未来を創っていくことに他ならないのだ。
そして、最も大切なのは、その構造を理解した上で、目の前の子どもにそれを反映させない、押し付けない、子どもとの間に持ち込まないこと。
できることを、分かっていること、知っていることを全部やる節操のなさを手放して、どう使うか?という知性、品性、感性を磨いていく。
ここでも「問い」が起点になり得るだろう。
自分たちの前提にどんな問いがあるか?
前提のある問いをどうデザインするか?
問いのデザインから保育の質を磨いていくアプローチも試みていこうと思う。
私たちが向く方向は、問いによって定まるのである。
探究スタジオ vol.13 ー2021年2月28日ー
【参考書籍】
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保育は人生そのものだ!
私にとっての「保育」という存在にも向き合っていきたい。子どもにとっての「保育」も、保護者や社会にとっての「保育」も考えていきたい。その営み…
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