【タバコと記憶】

母は「タバコ」というものが大嫌いです。

そして、父は喫煙者でした。

うっすらと子汚いベランダで、一人タバコの煙をはく父の影を見たことがあるような気がします。

母は喫煙者を嫌い、近場で吸おうものなら「非常識だ」「子供に悪影響だ」と言って煙に巻きます。

ふと考えて見ると、もともとタバコの匂いが嫌いな人間であれば、父とお付き合いを始めることもなかったのではないかと思います。

昨今流行っているマッチングアプリに試しに登録してみても「タバコNG」ともともと登録できるのです。

母が生きた時代は今とはだいぶ異なり、禁煙者の肩身が狭いように思われますが、母の母と父は禁煙者ということもあり、大嫌いでも大好きでもなかっったと考えられます。

母のタバコに対する「嫌い」は、「（父が）嫌い」と言っていると気がついたのは小学生になってからでした。

母はきっと、父と暮らしている頃は父に対して「嫌い」と言えなかったのでしょう。そしてまた、「実は嫌いなんだ」と誰かに愚痴をこぼすこともできなかったのでしょう。

だからこそ、今もなお耐えてきた数年分「嫌い」とタバコと父を重ねて、そう吐き出しているのしょうね。

私がタバコについてあまり悪く言わないと、母は起こります。

母にとって「タバコ＝父」なので、タバコについて肯定的することは、つまり父を肯定することになってしまうので、母の逆鱗に触れたかのように怒られた記憶がございます。

「父は悪魔だ」

「タバコは毒だ」

そんな呪文のような言葉を植えつけられて育った私は、「タバコ嫌でしょ！」と母に聞かれると、「うん！臭い！！」と言わなくては母に怒られる、という思考が生まれておりました。

タバコは臭いので嫌いです。

そして、喫煙者の方の苦しそうな咳を目にすると、夜中にヒューヒューと苦しそうに咳をしている姉の姿を思い出します。

タバコの紫煙には嫌な思い出が多すぎるのです。