読書日記その536 「サピエンス全史 上」
専門家からみた本書の評価はわからないが、古代文明や人類の歴史に興味のある一般人、本書はそのような人が最もおもしろく読めるのではなかろうか。専門用語の羅列ではなく、素人でも理解しやすくなっているのがうれしい。とはいえ内容自体は学術的なもの。そのため、ある程度は本を読みなれてる必要があるかもしれない。
7万年前まで、アフリカ大陸の隅でほそぼそと暮らしていたわれわれの種であるホモ・サピエンス。ところがここでサピエンスは、他の人類種との共存ではなく排他の道を選ぶのだ。縄ばり争いがそうさせたのか、異分子を排除しようとする性質からか。
サピエンスは7万年前から3万年前までの間に、自分たちよりも体格で上まわるネアンデルタール人を根こそぎ滅ぼす。そして1万5000年前には唯一の人類種となり、食物連鎖の頂点となるのだ。それを可能にしたのが言語だ。言語による意思疎通が協力関係を築き、他の人類種を圧倒したという。
その後のサピエンスの生活は一変する。それまでの狩猟採集をやめ、動物を家畜化し、作物を栽培する農業を始めるのだ。これを「農業革命」という。そしてサピエンスは、自分たちの生活をおびやかすような大型動物の大半や、何百種類もの鳥、昆虫などをこの地球上から絶滅させるのだった。
こうしてサピエンスは、地球上の生物の中で最も多くの生物を絶滅させた、史上最も危険な種となるのだ。地球が何十億年という長きにわたって築きあげてきた生態系を、ことごとく破壊していくサピエンスの登場はどう解釈すればいいのだろう。もしかすると地球にとっては悪夢としかいえない現象になるのだろうか。
とはいえ、そんなわれわれサピエンスではあるが、この「農業革命」は本当にわれわれに豊かさをもたらしたのか。「農業革命」によって、サピエンスはより幸せな生活を本当に手に入れたのか。ボクが本書を読んで最も印象に残ったのはこの点だ。
われわれは学校教育で、古代の農業革命は人類にとって素晴らしい進歩をうながしたと習った。ところが本書ではあくまで仮説ではあるが、農業革命は人類にとって生きる苦しみを生んだ史上最大の詐欺だという一説を説いている。サピエンスが植物を栽培化したのではなく、逆にサピエンスが植物に家畜化されたというのだ。面白いな〜。
狩猟採集時代はまだ人口は少なく、狩りや採集といった労働時間は、1日3〜6時間、狩りにいたっては3日に1回程度。これで100人程度の集団が生きていくのに十分な食料がまかなえ、あとは自由な時間を過ごしたという。そして季節の変化、気候の変動、食料の採集量に合わせて移動を繰り返していたという。
ところがより多くの食料を得れば、より多くの人々が豊かに生きれるだろうという考えのもとで、人類は定住し農耕を始めたのだ。人々は朝から晩まで田畑の管理を強いられた。そしてもっと収穫量を上げようと、さらに手の込んだやり方を考え、生活の大半を農耕に費やすことになった。
結果、人類の人口は驚異的に増えた。しかし人口の増えたぶん、さらに収穫量を増やさなければならない。よって人類の生活は田畑中心の過酷な生活を強いられ、自由が奪われることになったというのだ。収穫量を増やさなければならないという十字架を背負う無限のループだ。
人類は現代でも同じことを繰り返している。社会にでてがむしゃらに働いてお金を稼ぎ、35歳になったら退職して本当にやりたいことをやるのだと誓う。ところが35歳になったころには家庭があって、住宅ローンをかかえ、子どもを学校にやらねばならず、2台の自動車を購入し、もっと働かねば、もっと稼がねばと一生懸命取り組み、あくせく働く生活を送るのだ。
「豊か」とは何だろう。現代人は昔よりも豊かな生活を送っているだろうか。現代人にとって「心の豊かさ」とは何なのか、もう一度考える時ではないだろうか。
下巻へつづく。