ここに映画があるから4 『ゴンドラ』
緑あふれる山の谷間に渡された2つの古いゴンドラ(ロープウェイ)。オープニングは、小さいゴンドラいっぱいに乗った棺桶を、谷間に住む村人が厳かに見送る奇妙な光景からはじまる。ゴンドラの下に広がる村の人々は、子どもも大人もゴンドラとともに生きている。
故郷に戻ってきたイヴァは、ゴンドラの乗務員に採用される。先輩は飛行機の客室乗務員をめざしいているニノ。二人はパワハラ駅長をうまくあしらいながら、行ったり来たりするゴンドラですれ違い、想像力たくましく遊び始める。ニノが曲を書く。ヴァイオリンを弾き、イヴァがトランペットを吹く。村人たちを巻き込んだ合奏は谷間をふわふわと渡ってゆく。ゴンドラは何にでもなれる、どこにでもいける。
なんだろう?台詞がまったくない、説明のないこの映画の楽しさは!わくわくしてくる。コーカサス地方ジョージアの素朴な自然を背景に、ガタガタ、ギシギシ、ゆらゆら揺れるゴンドラは、その浮遊感でわたしたちをここではないどこかに連れて行く。台詞がないせいで画面に全集中できるせいかもしれない。
ずいぶん前に、「コシュ・バ・コシュ 恋はロープウェイに乗って」というタジキスタン映画があった。これはゴンドラで繰り広げられる男女の恋物語だったが、やっぱりふわふわと切なく楽しかった。この映画をもう一回観てみたいなぁと思ったが、配信はなかった。これを撮ったバフティヤル・フドイナザーロフ監督も亡くなってしまった。本作と逸れたところで少し虚しくなった。
シネマカリテでは、劇場待合室に素敵な装飾がありました。スタッフさんの愛があふれていて良かったので思わず「かわいいですね!」とお声がけしました。外に出たら新宿繁華街の日暮れ。
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