取締役会を攻略せよ!(単なる月次報告会から脱却させるための4つの方法)
この度は、YJキャピタルの取締役に就任いたしました。これからも、皆様のご協力をいただき、さらに旺盛な投資活動をしていこうと思います。さて、取締役になったということですので(笑)、取締役会の効率的な進め方について、『一兆ドル コーチ』という本の内容を参考にし、経験に基づいて自分の考えを整理してみました。会社経営をされている皆様(特にスタートアップの起業家の皆様)に、少しでも、役に立つといいなと思います。
また、直接話したりすることにより、種類と質の異なる相談にも対応できると思いますので、起業家の方は、いつでもTwitterでDMください。
その1、議題を明確に持って会議を仕切る
取締役会を単なる株主への報告会ではなく、さらなる成長のためのインプットの場として活用するためには、事業に関する課題や、人事、社内統制に関する課題などを、具体的な論点を共有・議論することが重要だと思います。これは取締役会のアジェンダーと言い換えられると思います。取締役会が、多い場合でも月に1度程度と思いますので、スタートアップにとって、月に一つも課題がなく順調というのは、極希なケースだと思います。もちろん前回上がった課題が未解決の場合は、それを引き続き今回で課題として議論するということも可能です。
また、最初は簡単な業務報告から始めるの良いでしょう。それは、取締役会での議論において、その企業の業績や状況が大前提となるからです。この部分に関しては、財務状況とKPI報告に限っていうと、多くの会社がすでに取り組んではいるはずですが、業務報告というのは、それらに限らず、もう少し幅広くとらえる必要があると思います。プロダクトの開発状況、他社との提携の状況、人事・採用の状況、マーケティング・営業の進捗状況、カスタマーサクセスや顧客サーポートの状況など、企業活動の包括的な業務報告を行うことが重要です。
取締役会は、これらの状況を全体的に把握した上で、初めて各課題に関して有意義な論議・意思決定ができるようになります。企業側は、上記の内容をできるだけ、簡潔にエッセンスを伝えるように心がけるのも、コミュニケーションの効率化につながるでしょう。一方で、全体が見えず、企業活動の一部しか伝達ができていない場合は、誤った結論を導く可能性が高いです。例えば、取締役会でセールスとマーケティングの報告にフォーカスをあて、プロダクトの話をあまりしなかった結果、実はプロダクトの機能の不足で失注が続いていたのを、マーケティング予算の増額や営業人員の増員という結論を導いてしまうケースも少なくありません。
このように議題が決まってきたら、議題に沿って運営をしていくことが、非常に大切です。会議の途中で、論点がずれてしまい、話がそれる場合も多々あると思いますが、その都度、代表取締役(CEO)などの進行役が、論点や議論を元に戻すというのが、必要です。時間というリソースは限られています。
進行役として、お勧めするのは、現場のことや事業のことが一番俯瞰的に把握できている、CEOが担当するのがよいと思います。
具体的な決議事項や注意事項については、以下のブログをご参考ください。
その2、事前に資料を共有する
一般的に行う、業績、市況、プロダクトの開発状況に関する報告については、資料の大部分を事前に取締役に共有することで、当日の取締役会の進行を効率化できます。取締役会は、これらの最新情報を頭の中に入れてから、ミーティングに参加ができるため、単純かつ反復的なことに割り当てる時間を多く節約できます。多くの場合において、事前共有がなく、取締役会で、いきなり財務状況やKPI実績などをスクリーンに移すと、当然ながら取締役はそれにばっかり集中し、細かいところの質問などに多くの時間が使われてしまいます。他に議論を必要していた事象について、時間が十分に使えなくなります。
また、取締役にも事前にきちんと資料に目を通してくることを、コミュニケーションして行く必要があります。資料を読まず参加しては、資料にすでに記載のある内容の質問をし続ける取締役には、「その会議に参加している全員の時間をある意味無駄にしている」と、取締役会で本当に議論したい内容について直接伝えるようにした方がよいでしょう。
その3、率直に伝える
従業員そして顧客との信頼関係を築く大前提に、率直さがあるように、経営陣と取締役、そして経営陣と株主の間に率直なコミュニケーションが取れていれば、自然と透明性が高く誠実な議論が、会社のために取締役会でできるようになると思います。
ここで注意すべきところは、実績や市況、プロダクトのアップデートなどについて、良かった点だけでなく、悪かった点や課題も具体的にしっかりと言及していくところが重要だと思います。
よかった点や、達成できた点、業界においての追い風などは、会社全体として注目・評価をしやすく、時間をかけて取締役会や経営陣に対して報告を細かくしがちですが、取締役会と経営陣が一丸となって、会社をよくするためには、何が解決しなければならない課題で、どのように解決すべきかという議論の方に時間をかけるべきなのだと思います。財務的側面のBad Newsのみならず、プロダクトの開発遅延、人材の流出が起きている・採用が思ったより進んでいないポジション、新規プロダクトにマーケットニーズがないなど、悪かった点にについても目を向けて、細かくかつ率直に共有し、議論する必要があると思います。
マネジメントとして信頼を築くための一つの重要である、率直さ(Authneticity)については、以下のリンク先にあるハーバード大学の論説をご参考ください。
その4、業界の専門家を取締役会に入れる
最近の話ですが、情報技術自体が、製造、医療、物流など既存産業においても広がりを見せております。IoTなどある程度ハードウェア関連の事業もそうですが、特にSaaSビジネスにおいても、バーティカルSaaSという、業界特化型ソフトウェアビジネスが、多く登場しているのが事実です。特に、この辺の領域でビジネスを展開しているスタートアップにおいて、業界の専門知識というのは、必須でしょう。
もちろん経営陣や創業メンバーが、自社サービスの領域においての経験や知見等を豊富に持つ必要はありますが、取締役会においても、専門家をメンバーとして入れることが、望ましいと思います。創業メンバーだけの専門性で足るのではという議論は、あるかもですが、やはり自社のサービスを開発していると一定自社サービスに対する思いや情熱など、偏見が生じるということもありますし、スタートアップに一定期間身を置くことにより、実際現在その領域にどのような動きがあるかを、リアルタイムで把握できなくなる場合も多くありますので、第三者の観点で専門性を発揮してくれる人を、1人でも取締役に選任することは、望ましいかもしれません。
これは実際、私の支援先で、ある消費財を開発・製造・販売する会社の取締役会で、専門家がいることにより、生産ラインの構築や、望ましい原価水準、競合の動きなどについて、かなり役立つ様々なインプットをしてもらい、実際会社側にも大いに改善が起きたことがあります。
最後に
取締役会を、形式的なもの、単純に株主による監視・監督機関、足元の業績報告会のように、思ってしまうことも、あるかもしれませんが、使い方次第では、強力なサポートを得られることも多いです。Googleの元CEOであるエリックシュミットは、こう言いました。「集団は個人より賢い。リーダーにとって最も重要な資質は聞いて学ぶ能力です。なぜならば誰も全てを知る事は出来ないからです。」と。せっかく優秀なメンバーが集まっている取締役会、しかも皆が同じゴールに向かっています。単純な反復的な定例ミーティングにせず、会社を大きく成長させる最高に機会にしてみてはいかかがでしょうか?