鬼児島名誉仇討(おにこじまほまれのあだうち) 読書感想文
崩し字勉強中の立湧と申します。と名乗るのもおこがましい事に、しばらくさぼってました。
さぼって何をしていたのか?
崩し字を学ぶうちに歌舞伎や中世の風俗に興味が湧き、それらに関する本を読んでいました。
しかし、近々浮世絵の展覧会に行く予定なので久しぶりにおさらいをしようと思いたちました。正直、かなり忘れている気が……。
テキストとして選んだ本は
鬼児島名誉仇討(式亭三馬 歌川豊國画)林美一校訂 河出書房新社刊
草双紙を復刻した超貴重本!(個人の感想です)
しかも林美一先生の解説入り。期待しかない!
早速、読んでみました。案の定、崩し字は半分程忘れていましたが、大丈夫。先生の読み下し文がちゃんとあるのです!
コレなんだっけ?という箇所を読み下し文と照らし合わせるうちに段々と思い出し、最終的には答え合わせなしに読めました。
あらすじは相模国の金澤家の家督争いから始まります。主君が急逝し跡取りを決めなければならぬが、本妻の子花若丸はまだ幼い。成人している春太郎は妾腹。家来たちは分裂し、話し合いは纏まりません。
そんな中、春太郎の守役である蛭巻郡司左ヱ門は春太郎の母お薗と密通し、奸計を巡らします。花若丸を害してしまおうというのです。
一方、花若丸の守役の花形刑部安國はいち早く計画に気づき、若君を守ります。
最終的に、武将家(将軍家)に相談し、故事に則り相撲で決めることになりました。双方、力士を召し抱えます。
接戦の末、花若丸方の抱え力士、鬼児島角五郎は自分より大きな敵の力士を土俵の外に投げ飛ばし勝利。家督は花若丸が継ぐことに。
ところが悔しい郡司左ヱ門。その後も何かと花若丸を害そうとし、花形刑部に阻止されます。そして逆恨みから刑部を殺して遁走するのです。
刑部の亡骸を前に、遺された者達は仇討を誓うのですが…。
以上、あらすじ終わり。
感想は素直に面白かった。途中で鬼児島が天狗に連れて行かれたくだりは「は?」思ったりしましたが。文章がリズム良く、内容も難しくないので、無理なく読みすすめられました。
式亭三馬の特色なのか、この頃のお定まりなのかは分からないのですが、子供がいじらしい。
刑部の孫虎之助は、祖父の遺体を見て泣きじゃくります。幼子には大事な大事なお爺ちゃんだったのです。自分が仇討したら褒めてくれるかと泣きながら訴えるのです。
更に父母、恩人夫婦も郡司に殺されてしまいます。仇討しようにも郡司はいづことも知れず。ただいたずらに月日が流れていきます。幼い虎之助は女郎となったお町(花形家の家来の娘)に匿われ、禿に身をやつしています。隙をみては隠し持っている父の位牌に手を合わせる。挿絵では後ろ姿なのですが、三馬の文章と相まって悲しみが迫ってくるようでした。
虎之助のいじらしさを引き立てるのが郡司左ヱ門の憎らしい態度です。刑部の息子やその妻、家来など次々と返り討ちにします。その時の悪態のつきようは、悪党そのもの。
歌川豊國の絵で郡司の姿が具体化され、冷酷な態度がより浮き彫りにされます。刑部の息子と家来を殺す前に、岩に三角座りして煙草を一服。苦しむ姿を見ながら罵る場面ときたら…。
林先生の解説によりますと、絵組(構図)は式亭三馬が決めて、豊國がそれを元に絵を描いたそうです。そういえば別の本で山東京伝の稿本を見たことがあります。人物や小道具の位置などきっちり描かれていました。成程、この方法ならイメージが明確に伝わるので合理的ですね。
私がこの物語を楽しめた最大のポイント。それは林先生の解説があったからに他なりません。時代考証、絵の中の場面や道具、文言などさり気なく説明が添えられています。中には冷静なツッコミとも取れる一言があり、フフッとなりました。
この林美一先生校訂の復刻本は他に五冊刊行されているようです。その中に歌川国芳画の【朧月夜猫の草紙】は国芳ファンの私としては気になるところ。早速出版社のHPを調べましたが品切れでした。古い本なので仕方がありません。図書館で借りることにします。
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