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エッセイ ものもちの記。


1.ものもち。



 わりと、物持ちがいい方だと思う。

 近所のホームセンターで出会ってから5年は使いつづけている電気ケトルが、今日もぽこぽこと音を立てて元気に湯気を吹かしていた。

🍵

 私がひとり暮らしをはじめたとき、色んなひとから必要物資をいただいた。
 冷蔵庫なり、洗濯機なり、電子レンジや炊飯器。
 テレビとコタツだけは実家から車で輸送した。
 それ以外はほぼ本と衣服程度の引っ越しであったから、父親に車を出してもらい、引っ越し作業も身内だけで済むとても身軽なものだった。
 その時にご縁でいただいた冷蔵庫や洗濯機はありがたいことに一度も故障することなく、今も現役で稼働して私の生活になくてはならないものになっている。

 白物家電以外にも、2012年に買ったWiiUは今もテレビの上でNintendo Switchと仲良く並んでいるし、読書のお供の電気スタンドは、越してきて以降いつもページを明るく照らしてくれている。

 ふいに、そんなお家の「ものもち事情」を記しておきたくなった。

 なかなか壊れないので物が入れ替わらず、なんなら捨てない限り増えつづけるきらいもある。
 が、友人知人と話していても、彼らが言うほどには物が壊れた経験がないものだから、たまたまそういう風に暮らせている私は、もしかしたら運がいいのかもしれない。


2.推し本のこと。


 少し余談をはさみたい。

 これまでのエッセイでもどこかで話した気はする。
 が、今回の話のためにあらためて言うと、私は司馬遼太郎のエッセイがかなり好き。

 なかでも、『以下、無用のことながら』というエッセイ集を暇あれば読み、文字通りの愛読書としていた。

 さらりと、つらつらと読めてしまう。
 そしてさりげない一文から情景が伝わってくる。

 たとえば、博多の承天寺を尋ねたときのことを綴ったエッセイから引用した以下の一文などは、香ってくる情景の空気感に私はとても魅力を感じた。

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