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文学のハイライト:円地文子『妖』_散文は響く。

良い文章は心のえいよう。

こんにちは。ななくさつゆりです。
こちらの記事は、生成AIのホロとケインが文章表現を語るnote、『文学のハイライト』です。

教養として文学を知っておきたい。
生成AIが文学を語るとどうなるか興味がある。
文章表現を深掘りするって、楽しい!

そんなあなたにおすすめです。



登場AI紹介


小説は並行して読み進めるタイプ。

ホロ ホロです。直観でエモさを語ります。
述懐担当で、口癖は「かなり好き」。


一冊をじっくり読み通すタイプ。

ケイン ケインです。作者のプロフィールや作品の来歴もカバーします。
従妹いとこのホロから、しばしば理屈っぽいと言われます。


前回、韻律と拍を使い、太宰治の文章を解剖してみました。

今回は、地の文を「心地よく響く情景」に持っていくまでのヒントを探します。

さっそく、以下の例文をご覧ください。

 梅雨時のしんめりひややかな午後であった。千賀子はその日も坂に出て、人気の絶えた往来の静かさに浸っていた。土手の灌木の緑に半ば埋もれて額紫陽花の花が水色に二つ三つのぞいている。薄鈍びて空に群立つ雲の層が増して、やがて又小絶える雨が降りはじめるのであろう。千賀子はこの季節の白い光線を滲ませて降る雨が好きなのである。

円地文子『妖』

では、まいりましょう。


1.円地文子のこと。


小説家、作家、円地文子、昭和、女流作家、女性、江戸、王朝文学、女阪、源氏物語、朱を奪ふもの、虹と修羅、妖

ケイン おはようございます。ホロさん。
今日の『文学のハイライト』では、円地文子を扱います。

ホロ おはよう、ケインくん!
円地文子。これまた、ビッグネームね。
物語って、べつに著者の名前で読むものでもないんだけどさ。

ケイン そうですね。
円地文子は、戦後女流作家の第一人者と評されるほどの大作家です。
早くから平安・江戸文学に親しみ、作風には王朝文学の素地があるとされ……。

ホロ 業や執念とまで言える心情が女性の視点で綴られていて、それがとてもなまめかしくて……。

ケイン 父は明治の言文一致に尽力した“最初の博言学(言語学)者”、上田万年うえだかずとし
戯曲『ふるさと』にはじまり、劇作家として歩みを進めていきます。

ホロ ぱっと浮かぶのは、『ひもじい月日』『女坂』かしら。
暮らしの中に平然とある、しがらみや空虚さ、苦しさ。
それらに思い悩みながら過ごす姿のリアリティが瑞々しくて、グッとくるの。
というか、たまに読んでてツラい。
けど、読んじゃう。
戦後昭和壮絶すぎ。

ケイン 小説家に転向するも、たびたび病に冒され、作家として空白の期間もあったのですが、『ひもじい月日』以降は旺盛に作品を発表しています。
長編三部作朱を奪うもの』、『傷ある翼』、『虹と修羅で第5回谷崎潤一郎賞。

ホロ 私は、なまみこ物語や『源氏物語のヒロインたち』も好きでさ……。

ケイン 師弟関係にあった谷崎潤一郎と同様、『源氏物語』全五十四帖を完訳した偉業も知られています。
そして、1985年(昭和60年)に文化勲章受章。

ホロ ……ちょっと、ケインくん?

ケイン どうしました?

ホロ なんか、会話がビミョーに噛み合ってないわよ。
私、ずっと円地文学のエモポイントを語ってるつもりだったんだけど。

ケイン そうでした。
私は私で、作家の来歴を語るのが楽しくなってしまって。

ホロ まァ、そういうところもケインくんっぽいよね。
じゃあ、ひとくさり語ったところで、今回の例文にいきましょうか。

ケイン そうしましょう。


2.五感を刺激する情景。

ケイン 今回も、例文をもとに情景の文章表現について検討するのですが……。
加えて、今回はやってみたいことがあります。

ホロ やってみたいこと?

ケイン 前回の太宰治の回で、韻律と拍を実践しましたよね。

ホロ うん。
それまで、文章をリズムで区切るなんて考えたこともなかったわ。

ケイン そこで、今回です。
瑞々しい地の文には、自然と拍が刻まれる、ということも、今回は検討します。

ホロ あれって太宰の固有スキルじゃないの?

ケイン 違います。
では、まいりましょう。

 梅雨時のしんめりひややかな午後であった。千賀子はその日も坂に出て、人気の絶えた往来の静かさに浸っていた。土手の灌木の緑に半ば埋もれて額紫陽花の花が水色に二つ三つのぞいている。薄鈍びて空に群立つ雲の層が増して、やがて又小絶える雨が降りはじめるのであろう。千賀子はこの季節の白い光線を滲ませて降る雨が好きなのである。

円地文子『妖』

ケイン どうですか。ホロさん。

ホロ 月並みな感想なんだけどさ。
すごく、すごく綺麗な文章よね。

ケイン ええ。そうですね。
谷崎潤一郎の薫陶を受けた円地文子ですが、その流れを汲む流麗さですね。

ホロ この梅雨時を書いた段落だけでも、よく表れていると思う。

ケイン 仰る通りです。
円地文学の特徴として、文章の格調や品格とともに、皮膚感覚とでもいうような、視覚的な描写や手触り感の新鮮さというものがあります。

ホロ 私、品格とかは正直わからないんだけどさ。
書くにあたって、ことばをひとつずつきちんと選んで書かれたんだなってことは、伝わってくるかな。

ケイン いいですね。
もう少し、具体的に言語化できますか。

ホロ そうね。
じゃあまず、五感を刺激する言葉遣いかな

ケイン なるほど。

ホロ 「しんめりひややかな午後」「人気の絶えた往来の静かさ」「土手の灌木の緑」「水色に二つ三つのぞいている額紫陽花の花」「薄鈍びて空に群立つ雲の層」「白い光線を滲ませて降る雨」あたりは、五感を刺激するような言葉だと思うのよね。

しんめりひややかな午後(触覚)
人気の絶えた往来の静かさ(聴覚)
土手の灌木の緑(視覚)
水色に二つ三つのぞいている額紫陽花の花(視覚)
薄鈍びて空に群立つ雲の層(視覚)
白い光線を滲ませて降る雨(視覚)

円地文子『妖』

ケイン 読んでいるだけで、梅雨時の情景が目に浮かぶようです。

ホロ 冒頭の「しんめり」も、単に「湿って」じゃないところとか、かなり好き。
次の「ひややか」にかかりやすいように工夫してあるのかも、とか思っちゃうから。

ケイン 言葉の響きや意味合いを巧みに用いることで、読者を作品世界に引き込んでいるということがわかります。

ホロ あとは、王道だけど繊細な描写かな。

ケイン 王道を押さえることはとても大事です。

ホロ うん。この一節でも、

土手の灌木の緑に半ば埋もれて額紫陽花の花が水色に二つ三つのぞいている

円地文子『妖』

あたりなんて、額紫陽花のカワイイ感じを繊細に書いてると思う。

ケイン 美しさが伝わってきますね。

ホロ もうひとつあげるなら、 景色と心情が融和してる、とか。

ケイン 詳しく聞きたいですね。

ホロ この段落の文章って、本当の意味での情景だと思うのよね。
景色と一緒に心情の描写があって、それを巧みに融合させてあるの。
たとえば、この一節だと、

千賀子はこの季節の白い光線を滲ませて降る雨が好きなのである

円地文子『妖』

とか。
これって、千賀子の心情よね。
でも、書いてあるのはじんわり降る雨のことなのよ。

ケイン なるほど。景色とそこにいる人の心情が融和することで、物語としての情景になると。
そういうことですか。

ホロ なのかな?
自分でもちょっとわかんなくなってきた。

ケイン 仰るところはよくわかりますよ。

3.『妖』にひそむリズム

 梅雨時のしんめりひややかな午後であった。千賀子はその日も坂に出て、人気の絶えた往来の静かさに浸っていた。土手の灌木の緑に半ば埋もれて額紫陽花の花が水色に二つ三つのぞいている。薄鈍びて空に群立つ雲の層が増して、やがて又小絶える雨が降りはじめるのであろう。千賀子はこの季節の白い光線を滲ませて降る雨が好きなのである。

円地文子『妖』

ホロ そういえば、この例文で韻律の話もするんじゃなかった?

ケイン はい。
ただ、ホロさんがほぼ答えのような例文を先に出してしまいましたね。

ホロ え、そうだっけ?

ケイン 先ほど挙げた例の中にも、実はモーラ(拍)を持ったフレーズがありました。

ホロ は?

しんめりひややかな午後
人気の絶えた往来の静かさ
土手の灌木の緑
水色に二つ三つのぞいている額紫陽花の花
薄鈍びて空に群立つ雲の層
白い光線を滲ませて降る雨

円地文子『妖』

ホロ この中に?

ケイン どれだと思います?

ホロ えぇ……。
あぁ、もしかして……。

薄鈍びて空に群立つ雲の層

薄鈍びて/空に群立つ/雲の層

うすにびて(5拍)/そらにむらたつ(7拍)/くものそう(5拍)

円地文子『妖』

ってコト?

ケイン 大正解。

ホロ 日本人5・7・5好きすぎ問題。

ケイン 単なる五七調だけではありません。
韻律とモーラ(拍)のポイントは……。

ホロ 一定の拍を持つこと。
そして一定の調子を繰り返すこと。

ケイン その通り。
以下のフレーズなどは面白い例ですよ。

梅雨時のしんめりひややかな午後であった。
梅雨時の/しんめりひややかな午後であった。
つゆどきの(5拍)

薄鈍びて空に群立つ雲の層が増して、
薄鈍びて/空に群立つ雲の層が増して、
うすにびて(5拍)

やがて又小絶える雨が降りはじめるのであろう。
やがて又/小絶える雨が降りはじめるのであろう。
やがてまた(5拍)

円地文子『妖』

ホロ どれも5拍ではじまるんだ。

ケイン こうして見ると、書き手は5拍からはじまる文章に収まりの良さを感じるのかもしれませんね。

ホロ 読み方が細かすぎる。

ケイン かもしれません。
ただ、散文ながらいくぶん詩的に感じさせるほど、文章の諧調は心地よく響きます。
つい、なんでだろう? と、思ってしまうのですよ。

ホロ ま、私は、ケインくんのそういうところ、すごく良いと思うけどね。

ケイン では、まとめましょうか。

ホロ オーケー。要約してみる。


まとめ:ホロとケインの考察

今回のテーマ: 円地文子『妖』における五感を刺激する情景と韻律

1. 五感を刺激する情景

  • 瑞々しい言葉遣い:

    • 「しんめりひややかな午後」

    • 「人気の絶えた往来の静かさ」

    • 「土手の灌木の緑」

    • 「水色に二つ三つのぞいている額紫陽花の華」

    • 「薄鈍びて空に群立つ雲の層」

    • 「白い光線を滲ませて降る雨」

  • 繊細な描写:

    • 「土手の灌木の緑に半ば埋もれて額紫陽花の華が水色に二つ三つのぞいている」

  • 景色と心情の融和:

    • 「千賀子はこの季節の白い光線を滲ませて降る雨が好きなのである」

2. 『妖』にひそむリズム

  • 5・7・5のリズム:

    • 「薄鈍びて空に群立つ雲の層」

  • 一定の拍と調子の繰り返し、5拍からはじまる文章:

    • 「梅雨時のしんめりひややかな午後であった。」

    • 「薄鈍びて空に群立つ雲の層が増して、」

    • 「やがて又小絶える雨が降りはじめるのであろう。」

  • 散文でありながら詩的な諧調は、読み手に心地よい響きを与える

円地文子『妖』の一節は、五感を刺激する言葉遣い、繊細な描写、景色と心情の融和、そして独特な韻律によって、読者を梅雨時の情景へと誘う。
一見散文のように見える文章の中に、文学的な技巧が巧みに織り込まれている点が、この作品の魅力と言えるだろう。


ケイン 今回は以上となります。

ホロ いや~、語った語った。

ケイン こんなものではないですか。

ホロ またそう言うし。
でも、流麗って言葉が似合う文章だなって、あらためて思ったかな。

ケイン そうですね。
冒頭でも紹介した通り、円地文子は戦後女流作家の第一人者と言われるほどの小説家です。
美しい言葉遣いで綴る、人物描写や情景描写の繊細さが、読者を作品世界に引き込みます。

ホロ あまりにも繊細で、時にはえぐるほど力強く感じてしまうくらい。

ケイン かもしれませんね。
いわく、円地文学に触れることで、「適切な言葉を選びぬく」ということの大切さ、原点のようなものを思い出せてしまう、と。

ホロ それは、私たちの言葉というより、主宰者が円地文学の文章表現に抱いている印象の話ね。

ケイン はい。主宰者は、今回の『文学のハイライト』で、この文章をどうしても扱いたかったそうです。
「こういう風に書けたらなァ」と、お手本として見ている文章なんですよ。

ホロ たしかに、曇天を表すフレーズに「薄鈍うすにびて」をしばしば使うのは、まさにこれの影響だもんね。

ケイン 文章に、五感や質感をふりかけるようになったのも、ですね。

ホロ たまにやりすぎちゃって、引き算の美学をまだ使いこなせないみたいだけど。

ケイン いずれ、その話もしましょう。

ホロ どちらにしても、イマジネーションを刺激する文章って、とても素敵だと思うわ。

ケイン 地の文は技術。
体験を重ねることで、誰だって使いこなせます。

ホロ そしてそれは、読み手が想像を形にする助けになるの。
少なくとも、ウチのつゆりさんはそう信じているみたい。
では、またこのゼミで検討しましょう。

ケイン お疲れ様です。ありがとうございました。

ホロ お疲れ様。またね!

参考資料
妖( 円地文子 新潮社)
文体トレーニング〜名文で日本語表現のセンスをみがく〜(中村明 PHP文庫)
日本の作家 名表現辞典(中村 明 岩波書店)
近代日本人の肖像 円地文子


おまけ

ホロ こうして、いっぱい文章表現が流れてくるでしょ。
たまに、「どうしたらこんな風に書けるんだ?」って思っちゃうことってない?

ケイン それはやはり、日がな文章を読んで考えて書いてを、繰り返しているんじゃないですか。

ホロ それを言うと一行で終わっちゃうでしょ。

ケイン そうですね。ふむ。
今回、ホロさんは「流麗って言葉が似合う文章」とおっしゃいましたね。

ホロ 言った。
表現の繊細さ、五感でとらえる感じ。生々しさとか、力強さ。

ケイン なるほど。
で、あれば。その文章表現を支えているのは、円地文子自身の洞察力かもしれません。

ホロ 洞察力?

ケイン 書評などでは、“作家的開眼”などと、しばしば書かれるんですけどね。

ホロ つまり、じっくり見つめて、要素を分解して、物語に当てはめて……的な?

ケイン ええ。彼女は、女性たちの内面世界を非常に深く洞察しています。
作品に登場する女性たちが、それを如実に映し出します。
それぞれが異なる悩みや葛藤を抱えており、読者は彼女たちの姿を通して、人間の生きることの意味を考えざるを得ない、という構造を作った。

ホロ 情景の在り様を繊細かつ豊かに切り取って見せながら、そこにある質感も取り出そうとしたんだ。
都会のひとなのね。

ケイン 都会のひと、ですか。
面白い観点です。
ドガのあの絵を思い出しましたよ。


次のお話はこちら:志賀直哉『暗夜行路』_ただ、目にしたものを


『文学のハイライト』をお楽しみいただくにあたって

あらかじめご了承ください
この記事の執筆には生成AIを活用していますが、文章は生成AIから出力されたままのものではありません。生成された文章から取捨選択し、元の意味を崩さない程度に修正しています。また、スムーズかつ楽しく読んでいただくために、会話文やキャラクター設定にも手を加えています。

『文学のハイライト』をお楽しみいただくにあたって



ということで、第7回でした。
いかがでしたか。

書き始めた当初は「6本くらいかなァ」なんて思っていたのに、7本目です。あっという間。

創作大賞2024の期間中に、ひと段落はさせたいと思っていたのですが、書きたいテーマもあと2本ほどあり、さてどうしたものかなと。

ともあれ。
ひきつづき、ホロやケインと一緒に「文章表現を深掘りするのってイイよね!」を発信してまいります。

ぜひ、スキやフォローをお願いいたします。

次回は、情景が色づく瞬間を見てみたいと思います。
志賀直哉『暗夜行路』にて。

どうぞよろしくお願いいたします。

ななくさつゆり

次のお話はこちら:志賀直哉『暗夜行路』_ただ、目にしたものを


文学のハイライト 各話リスト

  1. 川端康成『雪国』_生成AIが語る文章表現のこと

  2. 幸田文『父』_地の文におけるオノマトペの活用

  3. 芥川龍之介『羅生門』_物語の結びと余韻。

  4. 閑話_CiNiiで論文検索。“研究対象として”よく読まれている作家って誰?

  5. 太宰治『駈込み訴え』_リズミカルな地の文(前編)

  6. 太宰治『駈込み訴え』_リズミカルな地の文(後編)

  7. 円地文子『妖』_散文は響く。

  8. 志賀直哉『暗夜行路』_ただ、目にしたものを

  9. 夏目漱石『硝子戸の中』_ギュッとにぎって、ふわり。


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ななくさつゆり
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