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ざっくり文体論コラム。すっとぼけのレトリック。【伏線】 #14
ざっくり文体論コラム~🎉🎉🎉
配列の原理、6回目!
すっかり文体の沼にハマっているななくさつゆりです。
いま絶賛おハマり中なのはレトリックの沼。
前回の内容はこちら!
📚誤解誘導【悪用厳禁】
スキをまだ押していない方はリンクからじゃんじゃん押してってくださいね!
ではさっそく今回も、レトリックにおける配列の原理をやっていきたいと思います。
物語の魅力がより伝わるレトリックの話。
行ってみましょう!
レトリックのおさらい。
ここで言うレトリックとは一体どういうものなのか。
それについて、私の聖書でもある中村明先生の『文体トレーニング』から引用します。
「レトリック」ということばは文章のうわべを飾るまやかしの技術といった、虚飾のにおいがしみついている。だが、真正のレトリックは的確な表現を選び、あるいは考え出す行為としての方法のすべてなのだ。
厚化粧をしたデコラティヴな文章の時代は終わった。レトリックは今、もっとも基本的な表現技術としてよみがえる。
ざっくり文体論コラムは、私の勉強noteも兼ねています。
学びの過程をそのまま共有していけるように、ざっくりと書いていけたらと思います。
📚
次はレトリックの中身について。
レトリックには2つの在り方があり、その下で7つの原理に分けられるとします。
展開のレトリック
1.配列の原理
2.反復の原理
3.付加の原理
4.省略の原理
伝達のレトリック
5.間接の原理
6.置換の原理
7.多重の原理
これらの原理に基づき、あまたの文彩が定義されているとします。
文彩/文采 ・・・ 1 取り合わせた色彩。模様。色どり。あや。 2 文章の巧みな言い回し。
その文彩の中身を見ていくのが本コラムの試み。
今は最初のダンジョン「配列の原理」をもっぱら勉強中。
今回は、伏線をやります。
概説、伏線。
伏線 …… のちの叙述に関連する情報をあらかじめそれとなくばらまいておく修辞技法。
伏線は、物語全体の構成にさらなる面白さと深みを与えるレトリックです。
私が普段触れている近現代文学にはあまり出てこない文彩なのですが、昨今のストーリーライティングにおいては、読者に物語を楽しんでもらうために必ず検討する要素といっても過言ではありません。
これから何か物語を編もうとする際、
「どんな伏線を仕込むか」
というのは、書き手であれば一度は頭に過ることかと思います。
また、伏線といえば回収もセット。
さりげない伏線のばらまきと、あざやかな伏線の回収が作中で行われれば、作品はそれだけでひとつの評価を得られます。
読者や視聴者に「あれは何だったのだろう?」と思わせ、物語の終盤やクライマックスでその意味が明らかになれば、「あれはそういうことだったのか!」と受け手の感情を揺り動かすことができます。
読者に気づかれることなく地の文に伏線を紛れ込ませ、真実を明らかにすると共に仕込んだ伏線を鮮やかに暴露できれば、読者をあっと言わせることができます。
小説や漫画、テレビドラマや映画、ビデオゲームなどなど。
ストーリーがあるものであれば伏線が活きる余地があるので、みなさんも色んなところで意識せず伏線に触れていることかと思います。
📚
おおまかな伏線の特徴といえば、
暗示的 ・・・ 直接的な説明を避けてほのめかすような記述。
欠如感 ・・・ 最初の記述で情景や経緯の全体像が判明しない。
回収 ・・・ 物語の終盤やクライマックスで、伏線として叙述された内容が補完され、本来の意味が明らかになる。
必然性 ・・・ 回収されることにより、物語の必然性が強まり、説得力が生まれる。
読者の興味 ・・・ 良質な伏線と回収は読者の心象に強く残り、没入感が増す。
といったところでしょうか。
特に最後の「読者の興味」は本当の本当の真面目に大事な要素ですね。
伏線というのは、用いられた作品にとって、物語の華、語り草に思われがちです。
良質な伏線は本当に後々まで語り継がれます。
実際に、ネット上のレビューと相性がいいのか「この作品の伏線がスゴい!」で何本も記事が書かれます。
本編の内容よりも語り継がれるといっても過言ではな……ないのかもしれません。おそらくは。
📚
さて。
概説としてはいったんここまで。
いつもの通り、「そりゃそうなんだろうけどさ」という感じがあると思います。では、実際どうすればいいのか。
実践編にうつります。
実践、伏線。“すっとぼけ”のレトリック。
伏線というものを能動的に使っていくにあたってひとつ、説明を足そうと思います。
次回以降どこかで触れようと思っているのですが、伏線は配列のレトリックにおける対照法のひとつとされています。
対照法 ・・・ 対照的な二者を並立させ、たがいに引き立て合うように配する修辞技法。
対照法とはつまり、一つの表現が単独で効果を発揮するのではなく、組み合わせることにより大きな効果を上げる修辞技法のことです。
二つの表現がコントラストをなすように意義関係をもちます。
具体的な例でいえば、「針小棒大」や「遠くの親戚より近くの他人」という短いフレーズにも対照法の組み合わせの文彩を見ることができます。
あと、「極めて近く、限りなく遠い世界に」とか。ピンときたひとはコメントください。
これらはアンチシーシス(Antithesis)とも言って、演説、文学作品、広告など様々な分野で効果的に用いられるレトリックです。
たとえば、
That's one small step for a man, one giant leap for mankind./一人の人間にとっては小さな一歩だが、人類にとっては偉大な飛躍である。
Ask not what your country can do for you—ask what you can do for your country./国があなたに何をしてくれるかを問うのではなく、あなたが国に何をできるかを問うてください。
などが用例として出てきます。
伏線は、上記の対照法のフレーズと違い、表現が連続的につながっているわけではありません。
が、伏線には伏線の表現と回収の表現がそれぞれあり、たがいに引き立て合うことでより効果を発揮するという構造になっている……というところにつながってきますので、その部分だけざっくり掴んでいただけたらと思います。
📚
具体的な伏線の例なのですが、単に列挙すると幾らでも出てくるわりに配列のイメージがつかめないので、実際に文章を引用して説明してみたいと思います。
今回、用いるのは小野不由美さんの『屍鬼』です。
田舎の村の空気感や包囲するように差し迫る静かな脅威といった描写がとても好きな一作。
余談ですが、『屍鬼』、おすすめ!
小説以外にも、漫画版もアニメもあります。
漫画版は藤崎竜先生!
小野不由美xフジリューなんて私得すぎて困っちゃいますね!
私のこの愛着については別のエッセイのこの記事を見てもらえたらなんとなくわかっていただけると思います。
失礼しました。
今回引用するのは冒頭の「序章」の部分。
『屍鬼』はこの序章で一気に読者を物語に引き込みます。
第三者の視点でセンセーショナルに始まり、ここに至る経緯がこれから明らかになっていくという章自体の配列が見事なのですが、その先後倒叙のレトリックについては別の機会にやるとして、今回は冒頭に仕込まれている伏線の要素についてピックアップします。
元来、伏線の解説にはネタバレがつきものになるのですが、今回はネタバレ……というほどにはならないと思います。
こういう書き方をしている、この書きぶりが後に繋がってくる、といった話しぶりでいきます。
なので、回収の方、具体的に真実が何であったのかについては実際に『屍鬼』を読んでください。
繰り返しですが、伏線とは後々の叙述に使えそうな情報を、それとなーくばらまいておくという配列のレトリック。
それを頭の隅に置いて文章のあるがままを見つめてみると、太字で見えてくるものがあります。
では、見ていきましょう。
📚
好野は助手席の隊員に声をかけた。
「外場の消防団とは、まだ連絡がつかないのか」
それが、と無線機に向かっていた隊員は振り返る。
「詰め所に誰もいないようなんです」
「馬鹿な」
異常乾燥注意報がでている。それもいつ火災警報に切り替わってもおかしくいない状態だ。各消防団には厳重に警戒するように勧告が出ているし、ならば詰め所には必ず誰かいるはずだった。
「団長は」
「出張所から家に電話しているんですが、やっぱり誰も出ないそうです」
「外場の団長はつい最近、替わったばかりだったろう。新団長の家に連絡しているのか」
「当然、そうだと思いますが」
好野は軽く舌打ちをする。
冒頭、火災と思われる通報を受けて出動した隊員たちのやり取りです。
情景としては、慌ただしく急行する隊員たちといったところですが、この中にはこの外場という村で起こっていた重大な事柄に繋がる要素がちりばめられています。
誰かいるはずの詰所に誰もいない。
電話しても誰も出ない。
最近変わったばかりの団長。
始まって10ページもせずに自体は危急をつげています。
つられて次へ次へとページをめくってしまいますが、その途中にさりげなく後の叙述につながる要素を紛れ込ませているというさりげない伏線です。
そしてもうひとつ。
好野の問いに運転手は淡々と頷いた。歳の頃は二十代半ばのあたりだろうか。明かりが乏しいこともあって表情までは仔細に見て取れないものの、格別、取り乱した様子ではなかった。ただ、その顔も着衣も、泥の中を転げまわったように汚れている。
危急をつげているはずの外場方面から一台の車がやってきます。
運転手の若者はとりたてて取り乱してはいないものの、その車には明らかに火事場らしき臭気がまじっているようで、隊員たちにより緊迫感をもたらします。
だけならまだ、ただの事実の列挙です。
そこに以下の一節が加わり、情景や経緯の全景をよりあやふやなものにして、文章は後の伏線へと変わるわけです。
好野は一瞬、その汚れを血糊だと思った。もちろん泥が光線の加減で血のように見えただけだろう。——そうに決まっている。
伏線が文章として表に出てきたとき、記述は必然的に曖昧さや希薄さを持ちます。
それゆえに、伏線の文章とはえてして欠如感をもたらすもので、文章によっては「取るに足らないもの」としてスルーすることもしばしば。
スルーされたらしめたものです。
今回の例も、「見えただけだろう。そうに決まっている」と、文章上で事態を確定させず、「血糊」という要素だけを出して後への引きをつくっています。
詳らかに明かすほど、読者に真実を早々見抜かれてしまうリスクが高まってしまうわけで、どう興味を引きつつ本当に知られたくないところはぼかした文章に仕立てるかは、書き手の文章力の見せ所です。
種本である『日本語の文体・レトリック辞典』によると、伏線は実像と結びつく糸が作中に張りめぐらされているもので、通常は読者が気づきにくいように配慮した記述になるとのことです。
そして、先に読み進めて判明した意外な事実によって、序盤にばらまかされたそれらは急に物語の補強材料へと変わり、物語自体の説得力や完成度に磨きをかけてくれます。
これが伏線というレトリックが持つ力、表現の妙ということのようです。
📚
ということで、今回は伏線の話をしました。
実際に外場では何が起きていたのか!
興味がある方は『屍鬼』を読んでみてください。
今回は伏線ということで、実際にばらまいたときの文章を見ていきました。これがのちの回収されることで、物語により一貫性が生まれ、読み応えにつながります。
後の回収に向けて伏線をばらまいておく。
そのためにあえてぼかした記述にする。
見方を変えれば、伏線とは読者にあいまいな情報だけをそれとなーく先出ししておくという、ある意味ではすっとぼけのレトリックなのです。
ちなみに、このとぼけた書きぶりは意図的も無意識にも起こるもので、カッチリ設定を決めてそのために伏線をしっかり撒いておくこともしますし、なんなら「後々に使えそうな記述を最初に撒いておくか!」といったなんて面持ちで伏線をばらまくこともありえます。
未来の自分に託してとりあえず目立たないところに伏線をまいておくというのも、ちょっとした小技としてアリよりのアリ。
まァ、それもアリなのですが、『屍鬼』のように展開自体を冒頭に持ってくる緻密なつくりを取るとなると、そういう小技だけでは対応しきれません。
最初に構造をつくり、それから配列を変える流れ。
あらかじめ決めておいたものをダイナミックに入れ替えて序章で見せる、という配列の技が光るのも個人的に『屍鬼』の好きなところです。
📚
今回、伏線について話をしたのですが、回収の方にあまりフォーカスできませんでした。
なので、伏線というレトリックを使ってみるということについて、どれほどその面白そう感を共有できたか、私の中でややモヤモヤ感があります。
ぜひ、感想をコメントにお寄せください。
また、「私、〇〇の伏線好き!」みたいなコメントもお待ちしております。
伏線が後に回収されることで、単なるどんでん返しとはまた違う驚きを受け手に与えることができます。
積極的に使っていきたいですね。
次回に向けて。
今回の文中でも触れたのですが、次回は対照法の話をします。
対照や対比のあたりをザザーッとやってしまって、次のレトリックに進もうかなと。
今回、伏線ということで、用例にまたもやハリーポッターシリーズを用意していたのですが、文字数が膨らみすぎてあえなくカット。
シリウス・ブラックに関する伏線ネタを入れようと思っていました。
なかなかハリポタネタを挿し込めないでいるので、補完もかねてどこかで挿れたいと思います。
📚
さて、今回のざっくり文体論コラムはいったんここまでです。
ここまでお読みいただきありがとうございます。
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次回もお楽しみに。
今日もよい一日を。
ななくさつゆり
参考文献
📚日本語の文体・レトリック辞典(中村明)
📚屍鬼(一)(小野不由美)
📚ハリーポッターと賢者の石(J.K.ローリング 作 |松岡 佑子 訳)
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