イエス
久しく会ってない人からインスタグラムのDM経由で着信が入っていた。
最初は何かの間違いだと思って無視をした。
しかし、しばらくしてまた着信が入って折り返した。
その人とはたしか3年半くらいは会ってなかったと思う。
久しく連絡すら取らなかったからLINEも残ってたかお互いに忘れていたため、インスタ経由で電話をかけてきた。
電話の内容は、俺がその人が出るダンスイベントを観に行くことについてだった。
最初の着信に対して折り返ししなかったのが不躾だった。
共通の知人である出演者の方が観覧のことは伝えていたはずだから電話するまででもないと思った。
電話したのは、当日に俺にパフォーマンス中の動画を撮ってほしかったとのことだった。
これがとんでもなくハードルが高かった。
「瀧沢くんのカメラでちゃんとした映像として欲しいんだ」
3年半ぶりの会話をしているのもあり、想定外すぎる依頼だった。
趣味で写真を撮るため、そこそこのカメラを使ってるとは言え、カメラで映像を撮ったことはなかった。
引き受けるにもプレッシャーが大きかった。
カメラ本体のスペック、手持ち機材、会場の距離感など課題もありすぎた。
なのに、その不安はありつつも即決で引き受けた。正直に言うと引き受けてしまった。
電話を切り、16時半に差し掛かる夕暮れ時だった。
車社会のため大渋滞してる駅ビルのヨドバシカメラに行き、映像のデータサイズに対応するためSDカードを購入。
その後、帰宅して空き時間でYouTubeを開き映像の撮り方のハウツーをひたすら見て知識を叩き込んだ。テスト前の一夜漬けみたいな悪あがきだった。
当日、会場は各出演ごとに異なる構成で照明が設定されておりぶっつけ本番で挑む形となった。
色々トラブル、不安、ピンチもあったが何とか撮り切れた。
依頼主の期待には十分に応えられる結果となった。
本当にホッとした。踊ってる人たちより疲れたかもしれない。
だけど、喜ぶ依頼主と出演者のリアクションを見て俺の方が嬉しかった。
依頼の電話の時になぜ「YES」と受けたのかはわからない。
期待に全く添えないリスクの方がはるかに高いことは分かっていたつもりだった。
だけど、引き受けることは一つの挑戦であり、依頼主と、自分自身の勝負でもあったから成長の機会だと心は感じていたのかもしれない。
結果として映像を撮る時のセオリーを学び、現場から感触やコツを掴んで経験値を大きく積み上げられた。
「YES」と言えたこと。たったそれだけで。
「No」と断る権利だってある。
だけどたった一言「YES」と言えるだけで状況は一気に変えることができるのでだと思う。
そういえば、キリストもイエス様と言うよな。
クリスチャンではないが、キリスト教系の学校にいた時期もあり、自分の生き方に影響してるのもあって何かの関連性があるんだろうなと感じた。
振り返ると、2023年は落ち込んだ時期もあり、そこから這い上がって前にも進んだ歳だった。
自分自身への「イエス」があったのだろう。
小さくても、その小さなたった一つが事態を大きく変える力を持ってることを感じられた。
30代はそれを探していく時間になりそうだ。
「イエス」は本当に神の言葉なのかもしれない。