スポーツ中の脳震盪:栄養面からのサポート③ EPA/DHA
こんにちわ、Calantスポーツリハビリ&パフォーマンスの爪川です
今回は連載企画の3段目
スポーツ中の脳震盪:栄養面からのサポート EPA/DHA編です
参考にした文献はこちら↓
2020年2月に発表された文献です(すごい最近な気がしましたがもう1年前なんですね、、、)
この文献は「こんな実験をしてみたらこうなった!」とか「いろいろな研究結果をまとめたらこうなった!」というものではなく、著者たちの考えと今までわかっている事をまとめた様な内容だと思ってください
題名を意訳すると
「アスリートのスポーツ中の脳震盪と脳震盪に至らない程度の頭部への衝撃:発生数、診断、EPAとDHAの新たな役割」
脳震盪に至らない程度の頭部への衝撃 (Subconcussive Impacts)とは、脳震盪の症状を起こす程ではないものの頭や脳に伝わる衝撃を意味しています
最近では脳震盪だけでなく、脳震盪の症状は出ないけれども頭への衝撃自体も良くないのではないかと考えられており、それに対しての研究も行われています
文献は主に以下の4つのパートから構成されています
脳震盪(Concussion)
脳震盪に至らない程度の頭部への衝撃 (Subconcussive Impacts)
EPAとDHAの生態(Biology of EPA and DHA)
脳の健康の為のEPAとDHA (EPA and DHA interventions for brain health)
この投稿では文献内の”脳震盪に至らない程度の頭部への衝撃”、”EPAとDHAの生態”、”脳の健康の為のEPAとDHA”の3つについてまとめたいと思います
今回の連載は脳震盪への栄養面からのサポートいついてですが、この文献内の”脳震盪に至らない程度の頭部への衝撃”という内容も非常に重要で、シェアする価値のあるものと思いますのでまずはそちらからまとめたいと思います
1 脳震盪に至らない程度の頭部への衝撃 (Subconcussive Impacts)
この論文では”脳震盪に至らない程度の頭部への衝撃”についての憂慮・注意喚起もしています
頭への衝撃はそれが脳震盪を起こす程でなくても、長期間にわたり繰り返されればダメージが蓄積されて脳の機能に異常が起きるのではないかと危惧されています
このような頭への衝撃は人や物との接触があるコンタクトスポーツでは起こりますし、接触がないノンコンタクトスポーツでも起こり得ます。文献内ではサッカーのヘディングや野球のダイビングキャッチが頭への衝撃の一例として挙げられています
アメリカの元NFL(プロアメリカンフットボール)選手が現役時代に受けた脳への衝撃(脳震盪を含む)によって、慢性外傷性脳症(CTE)という脳の変性疾患になりやすくなっていると言う話を聞いたことがある方もいらっしゃるかもしれません(映画でウィルスミス主演の"Concussion"というのがありましたが、それにも出てきます)
元NFL選手の死後の脳を解剖すると、脳の中の白質路(White Matter Tracts)と言う部分の異常と認知機能の低下が関わっていることがみられました
さらに”脳震盪に至らない程度の脳への衝撃”が多いほど認知機能低下との相関がみられたとの報告もあります(この文献ではCumulitateive Head Impact Indexという指標を使って脳への衝撃を数値化しています)
脳震盪は脳にとっても好ましくないのはわかりますが、では脳震盪に至らない程度の衝撃はどれくらいが良くないのでしょうか?
アメリカの高校のアメフト部での研究によれば、早くて1シーズン(アメリカの高校アメフトの1シーズンは4ヶ月程度)でも白質路に異常の兆候が見られたとの報告もあります
よって脳震盪にはならなくても脳への衝撃が続いていけば、年齢を重ねていった時の認知機能の低下との相関があるのではないかと言われています
そしてこの”脳震盪に至らない程度の頭部への衝撃”というのは、選手からも周りからも症状が現れないので見えません(Invisible symptoms)
見えないものは現場では対処しようがないのが現状なのですが、それに対しての研究も進んでいます
この"見えない症状"を打破するのではと考えられているのが、Neurofilament Light (NF-L)という指標です
NF-Lは神経細胞の軸索と呼ばれる部分(特に白質路のある神経細胞)を構成する要素で、頭部への衝撃が起きた後にNF-Lが脳脊髄液(Cerebrospinal Fluid)と血液に流失します
アメリカの大学アメフト選手のNF-Lをシーズンを通して検査すると、スタメン選手の方がリザーブ選手よりも高い数値となることがわかっています
またアマチュアボクサーでは試合6日後まで脳脊髄液のNF-Lが高くなっていることも報告されています(ただし自覚症状はなし)
よってNF-Lが高ければ脳にダメージが起きていると考えられます
ただし、まだNF-Lを使っての検査は研究段階でその妥当性や信頼性は確立できていませんので、まだまだ研究が必要とされています
2 EPAとDHAの生態
まず前提情報としてEPAとはエイコサペンタエン酸(eicosapentaenoic acid)の略で(ウィキペディア)、DHAとはドコサヘキサエン酸(docosahexaenoic acid)の略です(ウィキペディア)
栄養素は炭水化物、タンパク質、脂質、ビタミン、ミネラル、水などど分類されますが、EPAもDHAも脂質に入ります
脂質にも色々と種類がありますが、EPAとDHAはオメガ3脂肪酸と呼ばれる部類に入ります
どちらもαリノレン酸という脂質から体内で作り出すことが出来ますが、EPAやDHAを体内で生成するよりも海産物やサプリなどから直接摂取した方が効率が良いと考えられています
DHAは脳にとって非常に重要な物質で、神経細胞の膜(細胞の皮膚の様な物)を構成する主要な要素です
さらに、脳全体の脂質の10%がDHAとも言われているぐらい脳には多くのDHAがあります
EPAもDHAも主な効果は抗炎症作用ですが、DHAの方がより抗炎症効果が高いと考えられています
3 脳の健康の為のEPAとDHA (EPA and DHA interventions for brain health)
文献内の印象的な言葉として、”習慣的なオメガ3脂肪酸の摂取は、ある意味で脳を守る「栄養のよろい」となり得る”ということがありました
ラットを使った実験では、脳の怪我が起きてから24時間以内に脳の損傷部位にDHAとDHAを含んだ脂質が流れ込みます
脳に損傷を起こさせる日までDHAを摂取させたネズミの場合、摂取しない場合と比較して学習や記憶能力が改善し、酸化ストレスが低下したとの報告があります
つまり、脳の怪我を起きたときに使えるDHAが多い方が予後の認知機能の改善に役立つ可能性を示しています
脳の怪我の合併症の1つに小胞体ストレスというものがあります(小胞体とは細胞の中にある物質でタンパク質を合成したりする機能を持ちます:小胞体のウィキペディア)
この小胞体ストレスとアルツハイマー病やパーキンソン病との関係があると言われおり、また人の死後の脳を解剖するとこの小胞体ストレスと神経変性(神経の異常)に関わりがあったとの報告もあります
ですが、DHAを摂取することにより小胞体ストレスを緩和するとの動物実験レベルで報告されています
このようにDHAの摂取が脳への好ましい影響を与える可能性が指摘されていますが、人間が研究対象の実験でも似たような結果が出ています
ある研究ではアメリカの大学アメフト選手がシーズンを通してDHAを毎日2-6g摂取した場合、NF-Lの数値が低かったとの報告があります(その研究はこちら)
このようにDHAに関しては多くの研究が行われていますが、逆にEPAに関しては脳の健康に関しての役割ははっきりとはしていません。EPAを体内で計測することが難しかったり、DHAの方が脳内に多くあることからそちらの重要性が高いであろうと考えられている事もあります
ただし、いくつかの文献ではEPAはDHAよりもよりメンタルヘルス(精神面)に有効と報告があります
WHOによれば、成人のEPAとDHAの合計の推奨摂取量は1日250mgから2g程度ですが、アスリートに関して言えばオメガ3脂肪酸が不足しているとの報告もあり、推奨の摂取量はまだ研究途中です
参照文献
代表:爪川 慶彦
運動生理学修士
アスレティックトレーナー(ATC:アメリカ国家資格)
ストレングス&コンディショニングスペシャリスト(CSCS)
・パーソナルトレーニング
・スポーツリハビリ/アスレティックリハビリテーション
・脳震盪リハビリ
痛みや怪我のリハビリからトレーニングまでを首尾一貫した考えのもとで行い、アスリートからシニアまでのクライアントのお悩み解決のサポートを致します