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初めてイッタラを買った話

【初めてブランドものの食器を買ったことを報告しているだけの雑文】

 食器にこだわりがない。
 それはもう、本当にない。普段使っている食器はほとんどが貰い物かタッパーだ。家を出るとき親に持たせてもらったものやら、プレゼントで貰ったものやら、パン祭りのシールを集めて貰ったものやら。

 思うに、私にとって食器とはインナーなのである。もちろん好きな色や形を選ぶのだが、それより機能性のほうが大切だ。透けないか、着心地は良いか、サイズは合っているか、気兼ねなく洗えるか、レンジにかけられるか、等々。そして、数が揃えばそれで充分良しとする。アウターの扱いで食卓を楽しんでいる人は尊敬する。

 ここまできて「タッパーは食器ではない」とツッコむタイミングを見計らっていた貴方、正解である。そのツッコミを待ち侘びていた。

 ところで、私には食器好きの友人がいる。素敵な焼き物を求めて各地の陶器市や骨董市をチェックするような友人である。
 昔、彼女に沖縄の工芸村に連れていってもらったことがあった。そのときひとつだけ買ったカップが、私が持つ数少ない「貰い物でもタッパーでもない食器」である。

 彼女が好きなブランドのひとつに、「イッタラ」がある。フィンランドの硝子工房から始まったブランドだそうである。

 毎年初売りで、イッタラの店舗に行く。彼女があれこれと吟味してまとめ買いをする様子を私が見守る。それが、いつしか正月の恒例行事になっていた。プレートにカップにキャンドルホルダー、カッティングボードという年もあった。食器の類は割らない限り増える一方なので迂闊に増やすべきではない、と思っている私にとって、彼女の買いっぷりは新鮮に映った。

 初売りは大抵彼女と一緒に出掛けるので、必然的に、私も毎年イッタラの店舗に立ち寄ることになる。それも、目を輝かせた連れとともに。

 毎年毎年見ているうちに、なんだか楽しくなってきた。

 磁器のシンプルさも素敵だったが、私が心惹かれたのは硝子だった。
 色とりどりの硝子。ぽってりとしたグラス。シンプルなプレートに小ぶりのボウル。花器にキャンドルホルダー。深みのある色はどれをとっても綺麗だ。色によって値段が変わるということは友人に教わった。材料が違うのだろう。この色を出そうと狙い定めてつくられているのだと思うと、どの色もとても繊細なものに思えた。

 今年の初売りでも、友人は上機嫌で買い物をしていた。キャンドルホルダーを3色並べて悩んでいたので、「ほーら、並べたらこんなに綺麗」とそそのかし、そのうち2色を買わせることに成功した。気持ち良くお金が使われていくさまを見るのは大変楽しいものである。

 自分でも、手に入れたくなった。

 初売りから帰ったあと、改めてネット検索をしてみた。公式サイトからフリマアプリまで眺めた。気がつけば硝子の器ばかりを探していた。
 シンプルなかたちでさまざまな色を揃えるのも素敵だ。深い赤、淡い青。
 デザインに特徴があるものも素敵だ。それなら無色透明が良い。

 食器の好みが皆無というわけではない。プラスチックよりは磁器や硝子のほうが、汚れが落ちやすくて良いと思う。レンジ可ならば更に良い。けれどその程度のこだわりならば、100円均一で充分だ。食器なんて、所詮は器なのだし。今までそう思っていた。
 でもそれなら、可愛いと思えるお気に入りがあったって良いじゃないか。

 そうして遂に、私はイッタラの食器を購入した。初売りから1ヶ月が経った、ある日のことである。食器ひとつに1000円以上も使うのは、随分久しぶりのことであった。

アイノ・アアルト/タンブラー(330ml)/シーブルー
カステヘルミ/ボウル/クリア

 アイノ・アアルトのタンブラー。シーブルーの深い色に心踊る。330ml入る大きいサイズを選んだ。飲み物はたっぷり飲みたいのだ。
 カステヘルミのボウル。見た瞬間に心惹かれた。雫のようなデザイン。これは絶対に無色透明が欲しいと思った。

 購入したその日の夜、早速ボウルにサラダを盛った。近所のスーパーで買ってきたお惣菜だったが、なんだかとてもきらきらして、美味しそうに見えた。いつもならばパックからそのまま食べてしまうところだったが、器って良いな、と、初めて思えた。
 友人が遊びに来たときには、さらっとお菓子を盛って出すことができた。なんだかちゃんとしたおもてなしができたような気がして嬉しくなった。

 夏が来たら、グラスに氷を浮かべてアイスコーヒーを飲みたい。今年の夏は水出しコーヒーに挑戦すると決めているのだ。アイスクリームを浮かべるのも楽しそうだ。

 突然華やかになった食器棚を眺めて、幸せな気持ちになっている。
 他の色も欲しいな、と思いはじめている自分にブレーキを掛けながら、まずは手持ちの食器を丁寧に使おうと決めた冬である。

 余談だが、アイノ・アアルトのタンブラーを見るたびモロゾフのプリンカップを連想してしまって仕方ない。関西人諸氏、いかがだろうか。

左がイッタラ、右がモロゾフ

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斜芭 萌葱
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