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にじゆらの手ぬぐいの話
【にじゆらという手ぬぐいのブランドを紹介しているだけの雑文】
気がつけば手ぬぐいにハマっていた。
手ぬぐい。平織りの木綿の布である。
それだけといえばそれだけなのだが、近年お洒落なデザインが多く販売されており、使って良し飾って良し身につけて良しと、魅力とポテンシャルに溢れた布様になられた。我が家でも、玄関のタペストリーになり、リビングでテーブルクロスになり、ストックのトイレットペーパーを飾り、保冷剤を巻いて首筋を冷やすのにも一役買ってくれている。もちろん手も拭いている。
にじゆら、というブランドがある。
大阪府は堺市にある染め工場で作られる、手ぬぐいのブランドである。
手ぬぐいにハマったというより、にじゆらの手ぬぐいにハマった、というほうが正しいのかもしれない。
ひとくちに手ぬぐいといっても、柄のつけかたはさまざまである。プリント、捺染、注染――にじゆらで用いているのは、注染。布の上に染料を注いで染める技法で、独特のグラデーションが美しい。
技法の特徴であるというだけでなく、そもそもにじゆらのデザインは繊細である。ブランド名通りのにじみ、ゆらぎ。優しく美しい色彩に目を奪われる。そうかと思えばぱっきりと潔く染められた柄もあり、飽きない。37×90cmの布をキャンバスに、まるで絵画のようである。
特徴的なのは、ワークショップや工場見学など、体験にも力を入れていることだ。
手ぬぐいを日常的に使っている、という人は、どちらかといえば少数派だと思う。かく言う私も、手ぬぐい歴1年ほどの超初心者である。
そんな「手ぬぐいに馴染みのない人」をも、手ぬぐいに親しませてくれる。そういう活動に積極的なブランドであり、会社であると思う。
今年の春、縁あって、注染体験のワークショップと工場見学に参加することができた。
注染体験では、なんと社長自らマンツーマンでレクチャーをしてくれた。1枠につき1名ずつ、気さくに丁寧に教えてくれる。抽選必至の人気だというのも頷ける。
小型の簡易な機械を用いての体験だったが、その「簡易な機械」というのが手作りだと聞かされ恐れ入った。実際の現場で使われているものとはもちろん別物だが、仕組みはほぼ同じだそうである。そういう意味では、思った以上に本格的な体験であった。
注染の仕組みはシンプルだ。色をつけたくない場所に、防染糊という糊を塗っておく。染めたい場所をぐるりと糊の土手で囲み、1色ずつ染料を注いでいく。すると、糊の無い場所が染まる。
的確なレクチャーのおかげで、予想より綺麗に染められて大満足した。
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自分で染めた作品を大事に抱えつつ、店先に並ぶ色とりどりの手ぬぐいを眺める。私の手ぬぐいもこの売り物も同じ方法で染められているのだ、と気づく。職人さんは凄い。
この体験の日から、注染手ぬぐいの見かたが変わったように思う。例えば、美味しい料理を美味しく楽しむだけではなく、その調理法にまで思いを馳せるような。
後日、工場見学に伺った。
実際に体験した染めの工程を、目の前で職人が行っていた。もちろん、あの日よりも大きな規模で。より繊細に、より軽やかに、よりダイナミックに。
防染糊は海藻から作られているそうだ。だから、工場は磯の香りが漂っている。そういう、現場でしか得られない感覚が貴重だった。
糊を洗い落とした長い手ぬぐいが、色とりどりに干されているさまは圧巻だった。
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こうして職人の手で、手ぬぐいは生まれるのだと知った。
手に取って気軽に使える、身近な伝統工芸品。
工場案内をしてくれた社長が、注染手ぬぐいをそう評していた。
にじゆらで手ぬぐいを購入すると、「にじゆらの使い方」というパンフレットがついてくる。注染という技法について、手ぬぐいの使いかたについて、写真や可愛らしいイラストで解説したものだ。だから、初めて購入したその日から、手ぬぐいというアイテムに親しむことができる。
また、ブランドwebサイトにはこんな一節がある。――曰く、「作り手と使い手の縁をとりもち 注染への理解が深まり 心を寄せてもらえるように。」
つまりは、そういうことなのだと思う。
その結果、私がひとり、注染手ぬぐいに心を寄せるようになった。
注染手ぬぐい専門店にじゆら。
株式会社ナカニ。
綺麗なデザイン、繊細な染め、それから技術への誇り、今と未来へのまなざし。
そんなものがくるりと丁寧に包まれた工芸品を、これからも愛してみようと思う。
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