『中国哲学史』　諸子百家から朱子学、現代の新儒家まで　中島隆博（著）　　孟子の「性善説」と荀子の「性悪説」について

中国哲学の重要な想像力のひとつについて、中島氏は、下記のような問いを立てている。

この問に対して、下記のように、荘子、楊子、孟子、荀子、郭象が描く人間の生のあり方の変容の諸相を綴っていくことによって答えることになる。

古代中国で「性」は「生」と重なる概念として発明された。アンヌ・チャンは、性 という 概念 について「 最初 に 検討 を 加え た のは、 楊朱（ 楊子） 学派 だ と 思わ れる」 と 次 の よう に 推測 し た。他人の生が危機に瀕したとしても、それはそれで、その人が考えればよい、ということである。自分の生を豊かにしていくことが最も価値があるとする楊子の生の概念は、孟子から見れば、エゴイズムにほかならない、ということである。

では、孟子はどのように性を考えたのか。有名な「性善説」は何を意味しているのか。

ここで孟子は、忍びざる心の拡充が必要であることを力説した。

というわけである。この孟子を厳しく批判したのは荀子である。荀子の「性悪説」は次のようになる。

荀子の場合、内なる心の働きが実践の場面に反映されなければ、性、情、欲を制御することは難しいと考え、その外なる実践を、荀子は偽（作為）と定義した。その偽とは何であるか。

このように荀子は、「治」に向かって「性を変化させる」ことを提唱した。その 方法 として「 師法 による 教化 と 礼義 の 道」 を 挙げ た の だ が、 その 最大 の 特徴は 歴史 を 導入 し た こと に ある。 

荀子は、歴史を導入することで、変更可能性を含みながら規範を基礎づけようとした。荀子が何としても乗り越えなけならかったのが荘子だった。荘子の根源的な主張は「物化」である。

「教化」とは何か。

有名な「胡蝶の夢」に物化の定義が尽くされている。すなわち、物化とは、

となる。

一方、郭象 は 物化 の 意味 を 解釈 し て、 区分 の 前後 で それぞれ の 世界 に 充足 し ながら 変化 する こと だ と 述べ て いる。
つまり、新しい存在様式と新しい世界のあり方に入ることがよりよいとして物化を肯定する。しかし、それは過去の暴力や悪を忘却することと引き換えというわけである。その例として麗姫の生涯をあげている。

物化の全面的な肯定は、恐ろしい肯定となる可能性があることを指摘している。

以上、人間 の 生 の あり方 の 変容 の 諸相 を 見 て き た。 その なか で、 荘子 を 乗り 超え ながら、 荀子 の 唱え た「 性 を 変化 さ せる」 ため に 最も 重要 な 手段 は、 礼 という作為を実践することであった、と中島氏は答えた。