【観劇感想】IN THE WOMB 2023-赤ちゃんといたい-
おはようございます。佐野太基です。
今回の記事は昨日観劇した舞台『IN THE WOMB 2023-赤ちゃんといたい-』の感想です。
『命』を考える物語
物語の根幹は、意識不明の重体となった頼子に宿る赤ちゃんの命を救うかどうか?ということ。
この物語に出てくる医療関係者は全員が『命を救うこと』にひたむきでした。
頼子は自分が死んだらドナー提供をする意思表示を免許証にて行っている。であれば、より多くの命を救うために頼子の臓器をいち早く提供するべきだと主張する、臓器コーディネーターの佐和田。
お腹の中の子どもが助かる可能性がある以上、母親の延命処置を行い、出産させるべきだ主張する頼子の主治医であり産婦人科の崎野。2人の周りの医師たちは可能性の観点からも佐和田の意見に賛成する者が多数。
素人目から見て、これはどちらが正しいという訳ではないですよね。全員が一つでも多くの命を救おうと想うからこその主張のぶつかり合い。
ただ、全てを救うことは出来ない。
医療の現場だけではなく、例えば受験生全員が自分の志望校に受かることはないし、夢を抱いた全ての人がその夢を叶えることはできない。
世の中は報われない事の方が多いかもしれません。
家族の死に対する家族の使命
このまま頼子を看取るのか、お腹の赤ちゃんを救うために達成できる可能性の低い治療に賭けるのか。
医師たちがどれだけ主張しようとも、それを決めるのは頼子の家族です。
夫である律はいきなりその判断を下せる訳はない。
駆け付けた頼子の姉、真子は医師たちに「お腹の中の赤ちゃんと共に頼子を見送ってくれ」と泣きながら頼みます。
ボクはこのシーンと見た時、死んだ祖父を思い出しました。
祖父は年相応の体の不具合はあったものの、入院をしていた訳でもない。しかし、ある日急に家で倒れ重体となった。
病院に運ばれた祖父の延命処置を続けずに、見送ろうという決断を下したのはボクの父、つまり祖父にとっての息子でした。
父はお酒を飲んでいる時に未だにこの時の自分の判断は正しかったのか…と零すことがあります。
ボクは正しかったと思いますし、きっと他の家族も同じでしょう。祖父に死んで欲しかったなんて思ってないけれど、命はいずれ終わる。家族を助けるのも家族の使命だとしたら、見送ってあげるのも家族の使命だと思います。
だから、この時の真子の想いというのは妹の頼子を愛する故だったのでしょうし、これ以上助かる見込みのない妹を、そして助かるかどうかもわからない妹の子どもを見るのが辛いという自分の気持ちもあったはずです。
それは、身勝手でも何でもないし、家族を愛しているのなら当然の感情ですよね。
少し未来=SF?
この物語にはもう一つ、世界があります。
それは2041年の人々の世界。
2041年の学生、凪を中心として話が展開していくのですが、この世界ではネットフリックスは最早、過去のエンタメ(今でいうVHS的な扱い?)
そして、スマホも持っておらず、宙をスワイプすると知りたい情報が見れたり、共有できるSFな世界(説明があった訳ではないのでボク個人の想像です)
ただ、実際20年前にスマホというコンピューターを一人一台持つ世界を、レンタルビデオ屋に行かずに映像作品を観れる世界をどれだけの人が予想できたのでしょうか。
そう考えると案外、この物語の2041年の世界はSFでもなく起こりうる現実かもしれません。
そして凪には心春という恋人がいます。女性です。
恋愛の対象か同性か異性か。
どちらにせよ、好きになった者同士が一緒に時間を共有できることが、現実の2041年でも、今この瞬間であろうと何百年経とうとも、この上ない幸せであって欲しい。
生きられているということ
今回の舞台を観て思ったのが、
命は産まれた時から死ぬことは決まっている。それは当たり前。しかし、生きられているということは当たり前ではないということ。
物語のヒロインでもある頼子しかり、現実でも理不尽な事故で命の危機に瀕したり、そのまま旅立つ人もいる。
また、顔も名前も知らない人から心無い言葉を浴び続けたり、目の前の人から暴力暴言を受けて自ら命を絶つ人だっている。
命はいつ終わるかわからないという意味では平等です。
自分語りで申し訳ないのですが、ボクも過去に心に大きな病を負い自ら命を絶とうと思ったことがありますし、今でもふとした時に「もう生きているの辛い。死んだ方が楽なのでは」と思うことがあります。
しかし、先ほど話した祖父を見送った時に思ったのが、家族を見送るのも家族の使命ですが、少なくとも両親に自分を見送らせたらダメだなということ。勿論、今後自分が事故や病気で両親よりも先に逝く可能性はゼロにはならない。でも、自らの意志で命を絶つことだけは止めようと思っています。
色々あるけど、人ってやっぱり幸せになる為に生きるべきだと思うんですよ。
これからも周りの目が気になってしまうことは無くならないし、焦ることもあるけれど、図々しく生き抜いてやろうと思います。
長文失礼しました。
今回の観劇はこの上なく素晴らしい、心に響く舞台でした。
この作品を創ってくれた全ての人たちに感謝と敬意を。
佐野太基でした。