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2019年の良かった音楽と

まえがき

2019年の年末にはプレイリストを作っていてブログの記事を書こうと思ったのに正月の3日も過ぎて4日になってしまった。だいたい年末年始というのは思い返すと何もしていなくて、年末はM-1グランプリぐらいから記憶が無い。というか記憶に残るようなことをしていない気がする。

M-1グランプリ優勝のミルクボーイのネタは、おぎやはぎ、笑い飯のように「そんなに狭いところでループするの?!」というところに着眼点があって、例えばおぎやはぎは「歌手になりたい」とか、笑い飯は「歴史博物館にいったら」という導入から最終的にたどり着いた狭いところでループしていたわけだけれど、ミルクボーイのネタは「おかんが〇〇を思い出せない」という導入のみで即ループに突入。加えてハライチの「〇〇な〇〇」ぐらい見事にフォーマット化されていて、冗長性の排除というか非常に現代っぽさを感じたのだった。

音楽においてもサブスクリプションのシェアが拡がる一方で、レコード市場が再度盛り上がる、みたいな話も冗長性と効率のせめぎあいという気がしている。

そしてそれはアルバムという外側のフォーマットの話でもあり、音数や生楽器のレコーディングの有無という中身の話でもあり、ジャケットのアートワークの話でもある。

サブスク以降にトレンドになった、削ぎ落とされた電子音のアンサンブルでボーカルトラックの音量がデカくて、ジャケットはアーティストの顔写真がドン、みたいな音楽にあんまり興味がなくなってきたのが今年の前半ぐらいだったと思う。単曲でチャートを戦いながらアルバム全体でストーリーを語り、「7rings」をアルバムの10曲目にもってきたアリアナ・グランデの存在は自分の中では大きかったんだろうか。

まえがきが長くなってしまったけど、今年のベストを作ろうと思った時に考えていたのはだいたいそんなことで、振り返るとよく聴いていた音楽や感銘を受けた音楽は冗長な、というと語弊があるけれどもロマンのある音楽が多めでした。

2019 BEST MUSIC

特に順位はつけていないので数枚ずつ。

ウィルコからブラッド・メルドーからデヴェンドラ・バンハートまで手掛ける老舗レーベルの"Nonsuch Records"と、インディークラシックや現代音楽、現代ジャズの新興レーベル"New Amsterdam"がパートナーシップを結んだことは結構衝撃だった。Nonsuchはその後シカゴのジャズ/ヒップホップの新鋭"International Anthem"ともパートナーシップを結んでいて、すでにTortoiseのギタリストJeff Parkerの新作のリリースが発表されていたりと、2020年も目が離せない感じがする。

その中でリリースされたDaniel Wohl『État』は、New Amsterdamからの前作『Holographic』でもみせた現代音楽のアンサンブルと電子音楽との融合をさらに高い次元でみせていて、James Blakeの1stを初めて聴いたときのような、音楽というよりも聴覚的な衝撃があった。演奏にはyMusicが参加し、共同プロデュースにSon LuxRyan Lottというのも見逃せない。

そのRyan Lottのソロ作Ryan Lott『Pentaptych』も素晴らしくて、Son Luxではキーボードとボーカルをつとめる彼が、1956年創立のTulsa Balletの公演のために書き下ろした楽曲集。現代音楽/クラシカルの作品集だけど、ここで聴ける彼の音楽とSon Luxの根底に流れるシンフォニックな響きはやはり切っても切れない関係なんだなと思った。

もう一つクラシックとエレクトロに関するアーティストでいうと、ブルックリンを拠点に活動するChristopher Tignor『A Light Below』も面白かった。オートチューンで変調したバイオリンとソフトウェアの電子音が境目なく混ざっていく感じは見事。ブレインフィーダーの注目株JameszooとMetropole Orkestが組んだ『Melkweg』も、狙っているところは同じような感じがした。

数年前の"デジタル・クワイヤ"に対しての"デジタル・シンフォニー"というか、電子音と生楽器をハーモニーとして調和させるみたいなところに面白さがあって、その時に単音でありつつ倍音もあってデジタル負けない音像としてクラシックの弦楽器が浮かび上がってきている。2020年はここにサックスとかも来そう。

国内では最近ジャズ作曲家の挾間美帆がリリースした『Dancer in Nowhere』がグラミー賞にノミネートされたり、米津玄師「馬と鹿」の編曲家、坂東祐大が話題になったり(紅白で披露された嵐「カイト」も彼の編曲だ)、現代音楽/クラシック的なアンサンブルが注目を集め始めているのも、生楽器のアンサンブルと身体性みたいなところが面白く感じてきているのかなという気がする。

ビートミュージック系では、Warpからリリースした『Ribbons』が話題になったBibioも良かったし、5年ぶりのリリースとなったTaylor McFerrin『Love's Last Chance』も良かった。同じく5年ぶりのリリースとなったFKA Twigs『MAGDALENE』は期待を裏切らないサウンドと、豪華なフィーチャリングアーティストでわかりやすく一回り大きくなったことを示していた。

ロックでは、Vampire Weekend『Father of the Bride』で、相変わらずサウンドやメロディこそ挑戦的ながら改めてギターという楽器を中心に添えてきた事には驚いたし、Alabama ShakesのフロントマンBrittany Howardがリリースしたソロ作『Jamie』は、オールドロックやゴスペルのルーツを強く感じさせながらも、やはりAlabama Shakesと同じく強烈に特異なサウンドとボーカルでもって唯一無二の質感を残していた。Tank and the Bangas『Green Ballon』は、Rebert Glasperがプロデュースした心地よいサウンドの中に冴えまくるリリシズムが光っていて、ラッパー顔負けの面白いフロウがあふれていたように思う。

Courtney HertmanとかAnna Wise、Rex Orange CountyStella Donnellyといった、どちらかと言うとアコースティックな手触りとエレクトロな質感を自然に行き来するSSWが盛り上がっていたのも今年の印象。

ジャズの事は今度まとめて書こう。国内の音楽は、石若駿がインタビューで話していた"元気玉"にまつわるリリースが一番刺激的で面白かったんだけど、これも機会があればまとめて。



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Hikaru Hanaki
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