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レイヤリングについて考える①

人体から熱を奪う要因は、「気化」、「伝導」、「対流」。
気化は、水分が気体に変わる際に周囲から熱を奪う気化熱によるもの。登山においては汗が蒸発する際に起こります。
伝導は冷たい空気に触れることで熱が奪われること。高山帯の気温は低く、冬では-15℃なんてことも。その冷たい空気に触れることで熱が奪われます。また、汗を吸った濡れた衣類が肌に触れることで体温を奪います。
対流は空気が動くことで体の周囲の暖かい空気が移動し、結果体温が奪われます。

登山においてはこの3つの要素が組み合わされ、人体から体温を奪っていきます。

この3つの熱を奪う要素からウェアを組み合わせて対処するのがレイヤリング。体から発生する熱を逃がさず、外部からやってくる冷気や風をシャットアウト、体から発生する汗を適切に処理し濡れから守ることで、氷点下の環境でも行動し続けることが可能となります。

アウターレイヤー

主に「対流」に対応します。高い防風性により風が直接体に当たるのを防ぎ、暖かまった空気がウエアの外へ移動することを防ぎます。また、風による「対流」により肌面の汗の「気化」が促進されるため、風を防ぐことで過度な冷えを防ぎます。

ハードシェルは防水、防風性に優れ特にゴアテックス採用モデルは完全防水と完全防風とされています。高い透湿性は持ちますが、通気性はないためやはり蒸れを感じます。しかし冬においてはそれが温かく感じるとも言えます

ゴアテックスのハードシェル。バリア性を求めるならやはりゴアテックスジャケット

最近では高い防水性、防風性に僅かな通気性を持たせたハードシェルも存在します。通気する=「対流」のため、熱は逃げるのですが、そこは熱を逃がしすぎないバランスを考えた通気性とのこと。
しかし、ゴアテックスに慣れた登山者からは蒸れの抜けが良すぎて冷えを感じるといった意見も?

次世代の通気防水素材 「 Täsmä 」誕生|コラム|Teton Bros. (teton-bros.com)

FUTURELIGHT | THE NORTH FACE (goldwin.co.jp)


ソフトシェルは高い防風性を持ちますが、防水性はなく、基本的に通気します。それが行動中のオーバーヒートを防ぎ、激しい活動時には有効となります。しかし、荒れた天候下ではバリア性能が足りず、特に防水性の低さは致命的となりえます。ソフトシェルは乾燥しており、雪や雨が少ない地域での使用を想定されたものです。日本のように水分の多い雪が降るような自然環境では晴天時に利用するのが妥当なのかもしれません。
ストレッチする素材を採用することが多く、ハードシェルに比べ着心地が良く動きやすいものが多い印象です

マムートのソフトシェル。適度な通気性と防風性。街着として使ったら超快適

ソフトシェルの中には完全防風の素材を使ったものも。通気しない分蒸れを感じることもありますが、ストレッチするため大変動きやすいアウターです。

ファイントラックのフロウラップは通気性がないため高い防風性を持ちます。通気しない代わりに高い透湿性と大きなベンチレーションが設けられています

ミッドレイヤー

ウェア内の断熱層により、冷たい空気をシャットアウト。「伝導」を防ぎます。また、ウェア内側の暖かまった温度を閉じ込めることで保温の役割も。
ダウンや化繊ジャケット、フリースがこれにあたります。現在は濡れても保温性が落ちにくく、速乾性もある化繊のフリースやジャケットが重宝されています。

ミレーのテクニカルフリース グリッド状の表面構造により速乾性に長けています
モンベルの化繊ジャケットULサーマラップジャケット 動きやすさと暖かさ、蒸れにくさを持つ個人的なBBGです。

ベースレイヤー

体に一番近いウェアで、体から発生する熱を逃がさず保温し、汗を適切に処理することで、 汗冷え=「伝導」と「気化」 に対応します。ベースレイヤーの素材によっては発熱効果のあるものもあり、肌触りも含め登山時の快適性に大きく作用します。各レイヤーの中で最も拘るべきレイヤーとも言えます。

化繊のベースレイヤーは汗を吸い上げ、肌面から引き離すことで汗の「伝導」を防ぎます。また、肌ではなくウェア面で素早く乾かすことで「気化」による冷えを軽減します。汗を多くかくような運動量の多い場合に特に効果的と言えます。

化繊ベースレイヤー モンベル ジオラインMW 高い速乾性と適度な保温性があります

ウールは繊維の中に水分を取り込み、閉じ込めることで汗の「伝導」を防ぎます。保水するという性質上乾きは遅いのですが、それにより「気化」による冷えも軽減します。ウール自体に水分を吸湿し発熱する特性があり、空気を多く含むため保温性も高い素材です。

ウール200g/㎡の冬期用ベースレイヤー。汗を吸っても冷たさを感じにくく、暖かさが持続します。難点は、虫に喰われやすいこと。油断すると穴だらけに…



以上、自分の思うままをつらつらと述べました。
理屈の上ではレイヤリングにより完全に冷気をシャットアウトできるのですが、現実はそうはいきません。性能の良いウェアを使用したとしても寒いものは寒い。冷えるものは冷える。しかしレイヤリングの理論を理解することでウェアの性能を発揮でき、より快適な活動ができるのではないかと思います。


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