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ショートエッセイ#2【焼きそば事件】

20代の頃、7年付き合った元彼の話で忘れられない出来事がある。二人の運命を変えることになった『焼きそば事件』だ。

焼きそばは焼きそばでも『ホンコンやきそば』である。

みなさんご存知のエスビー食品から発売されている袋入りインスタント焼きそばなのだけど、私はこの焼きそばが苦手だった。

一緒に暮らしていた彼にとっては大好物のようで、よくフライパンでジュージューと音をさせながら焼いていた。

それは、時に真夜中の三時過ぎに突如焼かれるものであった。はっきり言って、そんな時間に焼くべきものではない。二間しかない狭い部屋に暮らしていたので、当然ジュージュー音で目が覚める。

私に逃げ場はなかった。





ある日、私は会社の始業時間に間に合わず五分ほど遅刻をしてしまった。すると、ワンマンでリーゼントでヒゲの社長が私に怒鳴り散らした。

「今度遅刻したらお前クビだぞ」

社長の高圧的な態度についてはいつものことなのでなんとも思わなかったけれど、次の日はさすがに遅刻するわけにはいかなかった。


そんな日に限ってである。
事件はキッチンで起きた。


リビングから漏れる明かりとジュージュー音…


時計を見たら、真夜中の三時過ぎだった。
隣で寝ていたはずの彼はキッチンで焼いていたのだ…


ホンコンやきそばを…!!


怒りと悔しさと悲しさが沸々と湧いてきた。

どうして寝かせてくれないのかな…
明日は遅刻するわけにはいかないからってお願いしたのにな…

彼にとって私の睡眠よりも大事だったのだ、ホンコンやきそばが。
そんなに食べたかったんだね…そうか。そうか。



その事件が引き金となり、私は彼と別れることを決意した。

嘘みたいだけど、ホントの話である。


ホンコンやきそばに恨みはないのだけど、今でもスーパーなどでパッケージのおじさんを見かけると、この出来事を思い出してしまって苦笑いしてしまうのだった。

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