ファンタスティックコント~お正月はどこへ行くのか駅伝~
~ お正月、どこへ行くのか駅伝編 ~
火山竜一
① ペースメーカーが心配
「それでは、箱根駅伝の優勝インタビューです」
アナウンサーが、心臓に持病のある監督にマイクを向けました。
「二年連続優勝の『東京大逆転大学』です。監督、おめでとうございます」
盛り上がって騒いでいる学生たちの真ん中から、小柄な監督が前に出て来ました。
「昨年は逆転に次ぐ逆転で、監督さんは途中で心臓の具合が悪くなりましたね。今年は大丈夫ですか。なにしろ、区間一位と区間最下位の繰り返しでしたから」
監督はすごく嬉しそうな顔をしました。
「ご心配なく。今年は心臓に丈夫なペースメーカーを入れましたから万全です。これでやっと、選手のゴールを見届けることができました」
後ろの選手が万歳をして、歓声を上げました。
監督が振り向いて拳を突き上げました。
「二年連続優勝だ」
監督は興奮して胸をポンと叩きました。
ペキ。
ペースメーカーの割れる音。
胴上げは、中止になりました。
② ジェスチャーは国際語
駅伝で、外国人選手がごぼう抜きをしました。区間新記録。
アフリカの大草原からやって来た選手でした。
レースの後で、アナウンサーが監督にお願いをしました。
「監督。選手にインタビューをしてもいいでしょうか」
「彼は日本語も英語もできないよ。私はいつもジェスチャーだ」
アナウンサーはそれではと、選手にジェスチャーを始めました。
観客には、大いに受けました。
外国人選手は首をかしげました。肩をすくめました。監督を指さしました。
アナウンサーは、監督に翻訳をお願いしました。
監督が翻訳しました。
『あなたのジェスチャー、へたね。監督に習ったらいいよ』
③ ライバルは歩行者だ
スタート地点の歩道を、高校生の観客が走っています。
先に出発した大学駅伝の選手を、次々と追い抜いていきました。
止まりません。
速いのなんの。
高校生の観客はトップを独走して、ついにゴールを駆け抜けました。
各大学の監督もコーチも各大学の部員たちも、この高校生に集まりました。
もう必死の勧誘です。
「うちの大学なら推薦入学はばっちりだ。レギュラーも約束するよ」
後ろで選手たちが、次々と寂しそうな顔をしてゴールしていきました。
④ 〇〇君、がんばれ
応援団が選手と並走しています。
周りの畑は、道路より一段低くなっていました。
「〇〇君、がんばれ」
応援団は選手の横を並走しながら、メガホンで声をかけています。
選手が手を挙げて、前の選手を抜きました。
突然応援団の姿が消えました。
畑の中から、落っこちた応援団の声が選手を追いかけました。。
「〇〇君、がんばれ。いつも俺たちがついている」
畑から、メガホンがのぞいて、首を振っていました。
⑤ 実業団駅伝に復帰しても
昨年の実業団駅伝の放送は、新人アナウンサーの絶叫中継で、うるさかったのです。
苦情が放送局に殺到しました。
実は担当した新人アナウンサーは、もと実業団の選手で、つい興奮しすぎたようです。
今年の新人アナウンサーは、つまらなそうな声で中継しています。
「現在、走っておりますのは、昨年、この席から中継していた先輩です。転職して、現場復帰したそうです」
新人君の声は冷ややかでした。
「どうやら、ゴールまで、もちそうにありませんね。中継をやっていた頃のほうが、お元気だったのではないですか」
⑥ 駅伝はサバイバルだ
異常寒波がやってきました。
駅伝は、強風と積雪と極寒で、過酷なレースになりました。
次々と選手がリタイアしていきます。
一人の選手だけが、やっとゴールできました。
優勝です。
二位以下は、いません。
タスキをもらった時は、ビリの選手でした。
リタイヤした選手たちを乗せた救急車が、ゴールの横に止まりました。
それぞれの救急車の窓が開きました。
「おめでとう」
声が重なってコーラスのようでした。
救急車は雪にスリップしながら、病院のゴールを目指して出発しました。
⑦ 一緒に飲もうぜ
正月のお屠蘇で、すっかり酔っ払った駅伝ファンが、選手たちに声をかけました。
「ゴールしたら、乾杯しようぜ。俺がおごってやるよ。飲み放題だ」
選手たちは急ブレーキをして、全員Uターンをし戻ってきました。
酔っぱらいの駅伝ファンに走り寄りました。
「ごっつぁんです。携帯の電話番号を教えてください。焼き鳥屋でお願いします」
選手たちは、鳥のように次々と走り去りました。
もちろん全員完走です。
酔っぱらいの駅伝ファンも、走って逃げてしまいました。
とても足の速い酔っぱらいでした。
⑧ 酸素マスクの中でため息
実業団駅伝の選手たちが、急な山道を上っていきます。
「頑張って。勝ったら結婚してあげる」
沿道の知り合いの女性に声をかけられた選手が、ギアを上げてトップを独走しました。
すぐにスタミナが切れました。
みんなに抜かれました。
「また、来年ね」
女性は会社の応援団に伝言すると、帰ってしまいました。
ゴールした後で彼女の伝言を聞いた選手は、酸素マスクの中でため息をつきました。
「こっちの方が急坂だ。俺、リタイヤしそう」
⑨ 必殺のキーワード
大学駅伝の応援車から、監督の檄が飛びました。
「負けたら、落第だぞ。いいな」
選手の足が、速いのなんの。
「ら・く・だ・い・す・る・な」
タスキを継いだ次の選手も、次の選手も、監督から同じ檄が飛びました。
チームは優勝しました。
監督はボヤキました。
「どうしよう。学校の成績は勝算なしだ」
⑩ 頭と足の軽い選手
高校駅伝で、選手に監督の声がかかりました。
「おい、憧れの彼女が見ているぞ」
「え、どこ、どこ」
選手がコースを外れました。
失格になりました。
⑪ 江戸時代の箱根駅伝
武士も農民も職人も農民も、みんなで箱根駅伝を競いました。
箱根の関所で、ストップです。
「はい、手形を出して」
手形を持っているものは、誰もいません。
なんと、みんな、関所から江戸にもどりました。
往路、復路、同じ選手でした。
江戸城にゴールしました。
飛脚が優勝しました。
優勝インタビューで飛脚が困った顔。。
「手紙とどけるの忘れちゃいました」
飛脚はもう一度、出発しました。
⑫ 箱根は豪雪
箱根駅伝です。
豪雪に道は埋まってしまいました。
「うちが優勝だな」
初出場の『雪だらけ大学』の監督が、ほくそ笑みました。
直前に、全員、クロスカントリーの選手に変更していたのです。
クロスカントリーの選手がぼやきました。
「スキー靴をはかせてくれなきゃ、勝てないよ」
⑬ 中継所のラーメン屋
中継所の裏通りにあるラーメン屋は、誰もいなくなりました。
お客も店長も店員も、みんな駅伝の応援に出てしまいました。
お鍋の火は、元気いっぱいです。
しばらくして、消防車が駅伝コースを走ってきました。
お客が、脇で声援している店長に振り返りました。
「店長、消防車が優勝だね」
消防車はコースを外れて、店のある裏通りに入っていきました。
サイレンがラーメン屋の前で止まりました。
⑭ 箱根駅伝の初詣
上り坂の往路で、アナウンサーの絶叫です。
「優勝候補の『気まぐれ大学』の選手が、一位でゴールしました」
ゴールした選手は止まりませんでした。
カメラが選手を追いかけます。
とある神社に、優勝した選手が駆け込みました。
初詣客を抜いて、神社の賽銭箱の前で参拝をしています。
追いついたアナウンサーが、インタビューしました。
「いったい、どうしたんですか」
両手を合わせている選手は真剣でした。
「復路の必勝祈願です。お賽銭、貸して」
⑮ 頑張りはお守り次第
タスキを受け取ったアンカーの選手が、なんと中継所に引っ返してきました。
係員が駆け寄りました。
「どうしたんですか」
「忘れ物です」
選手は仲間から『必勝お守り』を受け取りました。
お守りを身に着けると、足取り軽く全員を抜いて、優勝してしまいした。
⑯ お守りのご利益
大学ん駅伝で、ビリの選手が、タスキをもらいました。
ユニフォームにお守りがたくさんぶら下がっていました。
大会のスタッフが、首をかしげて見送りました。
「どこの大学だろう」
「『神頼み大学』じゃないですか」
「この順位じゃ、神がかりにでもならないと無理だな」
「結果は、神のみぞ知るですね」
「倒れないよう、神のご加護を」
「シードを取れるかどうか、紙(神)一重ですよ」
「求めよ、さらば与えられん、だな」
二人は合掌しました。
選手は優勝しました。
お守りは、お守りランキングで一位になりました。
ベストセラーになって、各大学も付けるようになりらました。
ご利益はなくなりましたとさ。
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