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夏は幽霊だ! ファンタスティックコント~幽霊はいつも忙しい編~

① 勝手に盛り上がる運動会

 月夜の晩。
 墓地の間に幽霊たちが集まっています。にぎやかに運動会をしていました。
 幽霊の歓声は、幽霊にしか聞こえません。月光が明るすぎると、幽霊の姿は薄いので、幽霊にしか見えなくなります。
 そんな墓地に、子供たちが手をつないで入ってきました。
「肝試しだ。手を離すな」
「ねっ、帰ろう。お墓が生きてるみたいだ」
 子供たちは、お墓の間を足音を立てないように歩いていきました。
 幽霊たちが、子供たちをぬいていきました。百メートル走。
 そよ風が、子供たちの頬を撫でていきました。

② 判決は「生き返り」

 あの世では、閻魔大王が裁判長でした。
 大王の前には、背番号をつけた囚人四人が並んでいます。
 現世で、ひどい交通事故を起こして、自分も亡くなった者たちでした。
 幽霊裁判長の判決が出ました。
「一番。スピード違反。死刑」
「二番。一時停止無視。死刑」
「三番。一方通行逆走。死刑」
「四番。飲酒運転爆走。死刑」
 被告の四人が、首を傾げて尋ねました。
「裁判長。死刑って、どうやるんですか。僕たち、交通事故で死んだばかりですけど」
「死んでからの死刑は『生き返り』だ。マイナスのマイナスはプラスだろ。さあ帰りな」
 囚人が下がってから、閻魔大王は現世に電話を掛けました。
「あと、よろしくな」
 囚人たちは、病院のベッドで、生き返りました。話し声を見舞い客だと思って、目を開けました。
 まわりは全員お巡りさんでした。
「お帰り。待っていたよ」

③ 最後の手

 家の人たちが外出中に、泥棒が忍び込もうとしました。
 家の幽霊が、気が付きました。
 幽霊は警察に電話をかけようとしました。
 手が受話器をすり抜けて、かけられませんでした。
 幽霊は仕方がないので、最後の手を使いました。
「うらめしや」

④ 幽霊だけのオリンピック

 世界中の幽霊たちが集まりました。
「オリンピックを開こう」
 会議が開催されました。
 競技を何にするのか、もめてしまいました。なかなか決まりません。
 とりあえず、みんなで現世のオリンピックを見に行きました。
 オリンピックの開会式を、観客の背中から、そっとのぞきました。
「なるほど」
 これで、一つだけ、決まりました。
「聖火は人魂を使おう」

⑤ やっと幽霊オリンピックの開催だ

 幽霊オリンピックが、ようやく始まりました。
 『体重選手権』です。競技はこれ一つだけ。軽い者が勝ちです。
 みんな、優勝は自分だと思いました。
 いよいよ競技開始。
 選手全員が一位になりました。
 記録はゼロキログラム。
 金メダルが足りませんでした。
 種目をもう一つ、考えました。
 次は『お化け大会』恐いものが勝ち。幽霊を怖がらせらが勝ちです。
 でも、誰も恐がりません。
 最後にトライアスロン。ゴールは地球の裏側。ヨーイドン
 全員地球の真ん中をすり抜けて、ゴールしました。
 審判の宣言。
「地面と海を行かきなきゃ、トライアスロンにならない。全員失格」
 オリンピックは、当分の間、お休みになりました。

⑥ 幽霊の歓送迎会

「それでは、これより『新人歓迎会』を開催いたします。では、ご挨拶を」
「先ほど心臓発作で死んだばかりの○○です。あの世に来て慣れないことばかりですが、末永く、よろしくお願いいたします」
「あっ、ただ今緊急連絡が入りました。AEDの電気ショックで、○○さんは心肺蘇生したそうです。それでは、これより新人の『送別会』を開催いたします。では、もう一度ご挨拶を」
「皆さま、大変お世話になりました。知った世界に戻りますが、皆様のことは、けっして忘れません」
「いつでも戻っておいで。待ってるよ」
 幽霊の『歓送迎会』は終わりました。

⑦ 大統領は誰?

 幽霊の大統領選挙が始まりました。
 世界中の幽霊が集まりました。幽霊に国境はありません。時間もありません。
 投票者が多すぎて集計結果が出ませんでした。あの世に、電卓はないのです。
 話し合いで決めることにしました。
 やっぱり大統領は決まりませんでした。
「歳の順にしようか」
 こうして、一番年上の幽霊が大統領になりました。
 いつの時代の人なのかは、誰もわかりません。
 大統領になった幽霊は、隅っこに寝ていました。
 みんなに起こされました。
 お猿さんに似ていました。毛深い大統領の誕生です。言葉はしゃべれませんでした。
 笑顔の歯が、とてもきれいでした。

⑧ 幽霊はみんな自由だ

「幽霊専用の動物園を作ろうか。どうせ幽霊は毎日暇なんだし」
 幽霊たちは、みんな賛成しました。
 そこで、元園長の幽霊に、「動物園を作ってよ」とお願いしました。
「よし、現役復帰だ」
 元園長は働き盛りの頃を思い出しました。一生懸命あの世に動物園を作りました。
 完成です。開園式。
 みんなで、動物園の見学です。
 すると、檻の中の動物幽霊が、ふら~と、みんな檻をすり抜けて出て行ってしまいました。
 檻の中には、何もいなくなりました。
 元園長が一人しょんぼりとしています。
「現役引退だ。閉園だね」
 大空から、動物たちの泣き声が聞こえてきました。

⑨ 1+1=1

「現世では、僕の理想の人に会えなかった。でもあの世に来て、幽霊世界で君に出会った。なんて僕は幸運なんだろう」
「うれしい。わたしもなの。ね、一緒になりましょう」
「よし、いっせのせ」
 二人の幽霊は走り寄って、抱き合いました。
 一気に体がすり抜けて、反対方向に行き過ぎてしまいました。
 お互いに振り返りました。
 今度はそっと近寄り、重なりました。
「一緒になれたけど、これじゃ何の幽霊だか、わからないね」
「いいじゃない。わかっているのは、私たちだけ」
 こうして二人の幽霊は、永遠に合体しました。
 でも、ときどき喧嘩して、顔だけ二つになりました。

⑩ いざ天国へ、人事異動

「まいったな。幽霊になったら、昔の上司の幽霊に出会っちゃった」
 元上司の貫禄のある声。
「おう、久しぶり。最後の肩書は何かな。出世したか。なんだあ、そのままか。じゃ、しばらく俺の所にいなさい。昔の仲間と働くのも悪くないぞ」
「幽霊世界にも、会社があるんですか」
「俺が作った。やっと社長だ。副社長であの世行きじゃ、つまらんからな。お前幽霊になって、お墓の間でふらふらしてるくらいなら、俺のところで働け。現役時代の凄腕は、評価していたよ。人事課長のポスト、またどうだい」
「ありがとうございます。ではお任せください」
 しばらくして、幽霊の会社に、社長以外誰もいなくなりました。
 人事課長の置き手紙がありました。
「社長。全員、天国世界に人事異動になりました。さようなら」
 


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