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アウトフレーズ|11月30日(土)松本アリヤ

30日の「火を焚くZINE」初売りイベント、私は遅れて行った。イベントの詳細については他の日記に詳しいので、私は思い出したことなど。

小説はどういったプロセスで書くんですか?とお客さんに尋ねられた。
普段私がやっているテレビの仕事では逆算が求められる。あるものから作っていくということはしないらしい。「らしい」というのは、私がその文法に馴染んでいないことを意味する。
映画の場合も逆算して撮っていると、大学で映画を撮っていたさざわさんがそういっていた。思いつきでそのまま取っていく映画監督はいない、という話で、でも略さんが、逆に庵野秀明は膨大な量の素材から物語を構成していくということを言っていた。宇多田ヒカルの「One Last Kiss」のP Vもそういう感じで作っていたらしい。たくさん撮って送ってください、という発注。完成品を見ると、確かに現実のリミックスとでもいうべきPVになっていた。

設計図があって素材を作るのではなく、あるものからのブリコラージュ。その方式を自分も採用したいし、しっくりくる。
逆算しないこと。
自分はお笑いをやっているが、ネタを作る時でもなんでも、逆算はしない。逆算すると自分がびっくりできないから、という感覚がある。自分がびっくりしないものは、見た人もびっくりしなかろう。

きたのさんと抜け出して、カウンターの寿司屋に入った。
寿司屋でも仕事の話をしてしまった。
「思い」がテレビの現場で重要視されているという話をした。
テレビ制作の上で、制作者サイドはあくまで被写体の「思い」に仮託して、ある意味でそこに責任を押し付ける形で進んでいく。出演者がこういう思いがあるから、こういう展開にしよう、というように。それは一見当たり前で誠実な態度に思えるのだが、それが絶対視されているのに違和感を覚える。
その「思い」も、こちらの制作意図が反映されたものであるのは間違いないということもあるが、何より「物語化」ということに抗いたい気持ちがある。
岸政彦が「100分de名著」の『ディスタンクシオン』の回の中で、おもしろくしてしまわないことが社会学の仕事の一つだ、という意味の話をしていた。テレビやエンタメ、表現の世界では、面白いことが正義になりがちで、一面ではそうだし同意する(小林秀雄も、文学は面白いことだけが取り柄であるといっていた)。しかし、それでは対象者や事実を歪曲してしまうことがあることも事実だ。特にマスコミでは多くの人に届ける以上、わかりやすい物語にすることが求められるが、そこから溢れてしまうものにどうしても目がいってしまう。「思い」だけが正義ではなく、映ってしまった身体のノイズや発言のブレなどに、見るべきものがあると思う。
王道の物語の拒否。例えば今きたのさんと2人で寿司屋のカウンターに並んで、物語や哲学の話などをしているが、周りはお金を持っていそうな男性が綺麗な若い女性に寿司を振る舞っていたり、壮年の男性陣が実際的なビジネスの話をしている。周りは王道だ。そんな中で我々の異物感が、勝手に心地よい。心なしか、寿司屋の大将たちも、寿司下駄ひとつ、一本の瓶ビールを分け合って長居する我々を、ジャズのアドリブで通常のコード進行には収まらないアウトフレーズが入ってきた演奏を心地よく聞いているように、歓待している気がした。

その、コードを外したいという感覚が、逆算を拒否する心性とも響きあっていると思う。そう思ってなければ、お笑いなんかやっていない。
店に戻ると、ほかのZINEメンバーがそのタイミングで入れ替わりでご飯を食べに行き、ZINEメンバーでお店にいるのが自分ときたのさんだけになった。そうすると、ZINEについて聞かれた時、いきおいホストのように振る舞い始める自分が予想外で面白かった。普段しないのに、積極的にお客さんの話を引き出す。自分の話はそこそこに、相手を立てる。新たなクリシェにならない程度の変奏ができたところで、メンバーが戻ってきて、私は通常のコード進行に戻り、黙々と飲んだ。


松本アリヤ
ピン芸人、文筆家。東京都出身。
文芸お笑いというジャンルのライブを開催しています。noteで有料配信しています。ぜひ買って見てください。
https://note.com/ariya0000/m/mb1fbc394993d
ネタのYouTubeチャンネル登録お願いします!→https://www.youtube.com/channel/UCHCpAmSW7fhQ0kb4DeJ5PxA


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→関西方面で買えるのは今のところこの文フリ京都のみ!
◆水道橋の書店・機械書房さんにてお取り扱い。オンラインショップあります!

◆火を焚くZINE、オンライン販売用BOOTH準備中!電子書籍も販売予定です。震えて待っていてください。

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