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「寄り道」 aki

タタッ、タタッ、タタッ。
一人で帰る放課後、校舎の北側にある細長い階段を軽く小走りで下っていったものだった。
通っていた中学はちょっとした森の様な丘の上にあり、その裏手の木々に囲まれた少し薄暗い階段。下った先には民家に囲まれ軒を並べる小さな数軒の店。そこには住宅街の中に置き去りにされた小さな商店街の名残り、といった少しもの哀しい風情があった。

目当ての小さな本屋は普通に正しい佇まいの本屋で、表にある陽よけの下にはマンガに雑誌、その頃の私のお目当てだった明星に平凡、FM STATION なんかが並んでおり、横開きのサッシを入ると一人幅の通路の両側にぎっしりと本や漫画が詰まった棚。客がいるのをほぼ見た覚えはなく、立ち読みがちょっと長くなると本棚の奥からの店主の鋭いジト目光線が痛かった。

丘の南側には賑わう大きな商店街に大きなスーパー、中規模の本屋も数軒あったのだけれど、その小さな本屋と周辺は中学でできた新しい友達の家に行く途中に発見した新たな世界。
敢えて遠回りして寄り道禁止をやぶる放課後。
ドキドキしながら密かなお気に入りの時間を過ごす場所だった。

今では木々の茂った丘は開発されマンションが建ち、広く舗装された階段の下には建売り戸建てが立ち並ぶ新しい住宅街に変貌している。細長く薄暗い階段と寂しげな小さな本屋は、中学生の私の校則を破るちょっとしたドキドキ感と共に掘り起こした記憶に残っている。

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