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はいさい!沖縄に魅せられた南方写真師

「ひとすじ」は、”50年以上ひとつの仕事を続けている”方々を、フィルムカメラを用いて写真におさめるプロジェクト。
個人が自由に仕事を選べるようになり、転職や職種転換も当たり前になった現代だからこそ、その人々の生きざまはよりシンプルに、そしてクリエイティブにうつります。
このnoteでは、撮影とともに行ったインタビューを記事にしてお届けします。

タルケンおじぃこと垂見健吾(たるみ・けんご)さんは写真を生業にして54年。

取材の傍ら、沖縄料理、泡盛の飲み方、街の観光など、僕らにたくさんのお・も・て・な・しをしてくれました。そのすべてが楽しいひとときで、既に沖縄の虜です。

3泊4日にぎゅっと凝縮して、沖縄の魅力を教えてくれたタルケンさん。
オリエオンビール片手に始まった初日の宴会からご覧ください!!


 

54年間、復帰直後から撮り続けて

ー 今日はありがとうございました。カリー(乾杯)!!
タルケンさん:あー素晴らしいなぁ。

ー 東京で飲むオリオンビールと全然違いますね。
タルケンさん:沖縄にきて飲むとおいしいはずよ!幸せだなぁ。良いタイミングで来ていただいてありがとう。

ーこちらこそですよ。
タルケンさん:タイミングってあるからね。今回はお天気に恵まれて良かったさぁ。
ここのイカスミ焼きそば、甘味があって美味しいだろ?食べるとこうなるけど(歯が真っ黒)。酒と料理はその土地のものだから、合うようになっているんだよ。

ー ここのお店で深酒したこともありましたか?
タルケンさん:毎日深酒(笑)

ー 初めて沖縄に来たのはいつですか?
タルケンさん:25歳、沖縄が本土復帰してすぐの頃に仕事で来て、さとうきび畑の前でモデルさんを撮った。それが沖縄に来て初めての仕事で、沖縄に連続して来るきっかけになった。雨の日が続いて、撮影がなかなか進まない中、沖縄の先輩がここの泡盛と沖縄料理の「うりずん」を教えてくれた。

ー 当時から沖縄が好きだった?
タルケンさん:好きか嫌いかも考えてなかったな。東京から仕事で来て、仕事で帰って、当時はそれだけだよ。こんなにのめり込むとは思いもしなかったなぁ。

ー 沖縄のどこに魅せられたのでしょうか?
タルケンさん:まずは、泡盛だね。お酒大好きだったから、ありとあらゆるお酒を飲んできたけど、沖縄に来て泡盛っていう蒸留酒に出会って、その泡盛を上手に飲ませてくれる方がいた。
沖縄の本土復帰と同時に、このお店を作り、沖縄に来る度に訪れて、泡盛の美味しさを教えてもらった。おいしさを教えてもらうたびにどんどん深入りしてしまった。泡盛はクースー(古酒)だよって生意気なこと言いながら、ペロペロ飲んでいるうちに調子こいて、頭パーンとなっちゃったりして、今は辞めてます。

ー なぜ辞めたのでしょうか?
タルケンさん:6年ほど前まではベロベロの生活だった。今も本当は飲みたいけど、飲まない。毎日1カットでも多くの写真を撮りたいから。飲まないようにしてます。答えがカッコ良すぎるよね、はははっ、本当はこんなにカッコよくないよ(笑)。
やっぱりこの風に吹かれて、この沖縄の中で、美味しいお酒を飲ましてもらって、美味しい料理も食べさせてもらって、ああここでよかったな、ここがよかったなって思えたから沖縄に今いる。

ポートレートを撮ること

ー 泡盛以外の魅力も教えてください。このままじゃお酒好きだったおじさんになってしまうので(笑)。
タルケンさん:そうだね(笑)。沖縄ってところは、琉球王国の歴史があって、文化があって、言葉があって、人がいて、それらに触れるたびにものすごく新鮮で、まともに勉強はできないけど、その片鱗に触れ合うと、なんてここはいい場所なんだろうと思った。少しずつ勉強して、いいところを見つけて、いいところに住んでいるなと思います。本当に強く思います。

ー 今日の撮影の手応えはいかがですか?
タルケンさん:朝から写真集持って、離島の人たちに見せて、喜んでもらえたと思ってる。こういった形で恩返しをしていきたい。

ー すごい感動してましたね。
タルケンさん:去年の4月に、今まで50年撮り続けてきた沖縄の写真をまとめて『めくってもめくってもオキナワ』っていう写真集を出しました。本当に600ページくらいあって、50年撮り続けた写真が記録として残ったというのが、すごく運が良かったなって本当に感謝してる。これをいつも手離さずに持って、みんなに見せていきたいと思う。

ー ポートレート撮るときのこだわりは?
タルケンさん:基本的にポートレート撮るときは、この人をこう撮ったら、とてもかっこいいなというのが基本で、昔みたいに怒らせたら本気が撮れるから、怒らせるというのもわかる。
でも、僕はニコニコしてその人が表現したい表情を汲み取りたいと思っている。優しい顔とか、可愛い顔とか、ニコニコしてるシーンを撮りたい。バカじゃないかと言われるけど(笑)この人がどんな人か、一枚の写真だけじゃ表現が難しいからね。

「写真からは離れられなかった」

ー 写真を本格的に始めたきっかけを教えてください。
タルケンさん:デザインの学校に行ったけど、1年半くらいで辞めてしまった。その後、写真家に師事したのがきっかけかな。
当時は、何もわからない青年でしたから、その日暮らしみたいな生活をしてた。写真屋、写真家になろうなんて、ここから爪の先まで思ってなかったね。

ー 写真家の先輩との出会いでどう変わったのでしょうか?
タルケンさん:特別変わってる人だけど、そこが素晴らしく尊敬できるところでもあり、やっぱり他の写真家にない一面を持ってた。この弟子入りがターニングポイントになったね。

ー その後、独り立ちしたのはいつ頃ですか?
タルケンさん:弟子辞めたあとは、フリーターに一度なった。オイルショックで仕事がなかったけれども、写真を離れようとは思わなかった。写真をやりながら、デパートの配達員を1年半くらいやって、そしたらある時、出版社の写真部から来ないかと誘いがあった。そこでワンステップ道が開けた。師匠の仲間経由で話がきたのが、とても嬉しかったね。

ー なぜ写真を離れたいと思わなかったのでしょうか?
タルケン:
写真家の先輩方との出会いもあり、写真を仕事にしたいという気持ちが次第に芽生えた。
フリーターしてたけど、写真から離れようと思ったことは一回もなかったね。カメラマンとして生きていきたかったから。

記憶装置でもあり記録装置

ー 当時は写真を撮ることと、それがお金になるのどちらが嬉しかった?
タルケンさん:お金になるのが嬉しかった、写真を撮るのは、写真を撮る工程があってお金になるけど、お金になった方が嬉しかった。もちろん、どんな写真を撮るかも大事にしていたけど、昔はそんないい仕事なんて考えられなかったから、写真でギャランティが得られればと思っていた。

ー それが逆転したのはいつ?
タルケンさん:急に変わりはしなかった。少しずつ変わって来たのは40代。やっと食えるようになったと思ったら40代で、出版社の写真部を辞めてまたフリーになった時だね。

ー 50年はあっという間でしたか?
たるけんさん:あっという間でしたと言うのは簡単だけど、色々なことが詰まった50年。
過去はあっという間ですけど、ひとつずつの事柄、時代の思い出とか、写真を続けられたのは、やっぱり写真が好きだからです。でも、決して才能がなくても、僕は運がすごく強かった。
この沖縄に僕が通うようになり、年を重ねて、仕事を重ねるごとに、「ああ、いいよ。なんでも撮りなさい。撮るのは自由だから」と。船の上からでも水中からでもいいし、島の人を訪ねて行って、お話をしながら写真を撮るのもよし、とにかく撮りなさいということを仕事の中で教えてもらった。
結構長いこと生きてきたな、この先大丈夫かな、どれくらいかなとかちょっと考えるけど、本当に幸せだな、タルケンって思います。みんなのおかげです、沖縄のおかげです。“幸せ”とは、道を誰かが用意してくれるわけではないけど、その道を歩いたから今のタルケンがある。

ー タルケンさんにとって写真はどんな存在ですか?
タルケンさん:記憶装置でもあり、記録装置でもある。写真は僕の中の日常で、頭では忘れるけど、フィルムやデータをちょっとでも見返すとそのときのことが鮮明に思い返せる。タルケンにとって写真は記録と記憶の装置です。
みなさんがタルケンに写真を撮らせたいと思ってくれないと続かないので、よろしくお願いします。ゆたしくうにげーさびら(よろしくお願いします)

 取材後記

タルケンおじぃこと、垂見健吾さんの写真集『めくってもめくってもオキナワ』には、沖縄の人々の暮らしをはじめ、沖縄料理、海や空など、50年分のありとあらゆる沖縄が丁寧に詰め込まれている。沖縄の魅力を知ることができる一冊でもある。
7月中旬に始まった沖縄取材では、タルケンさんと助手のナギノさんにたくさんのおもてなしをしてもらった。3泊4日の短い滞在ではあったものの、その魅力を僕たちに体験してほしい、触れて感じて欲しい、そんな思いを二人から汲み取った。共にした時間は暖かくて、心地よくて、別れ際に目頭が熱くなったのを鮮明に覚えている。
帰りの那覇空港で、沖縄に移住するのも良いなと思った。国内・海外問わず、私は大の旅行好きなわけだが、旅行然り、取材で訪れた街にこれだけ魅了されたのは初めてだった。
人や街などに惹かれて移住を決めたタルケンさん。友人らが東京から離れる気持ちが少しわかった気がした。今はパソコン、スマホがあれば業種によってはどこでも仕事ができる。一度きりの人生だからこそ、どこか遠い場所に移住するのも楽しそうだと考えた。
移住先で、何の仕事をするかは自由だ。タルケンさんは沖縄に来る前から写真師、私は実家を出る前から映像の仕事をしている。写真は、動かないからこそ膨らむ、映像は動くから安易にわかる。それぞれ良さ・悪さはあるけど、表現の違いで、撮影対象は同じ。
取材をするとき、私は必要以上に感情移入しないようにしている。人が好きだからこその悩みだろうか、客観性に欠けることを恐れている。この鉄則をぶっ壊してくれたのが、タルケンさんだ。
取材対象の属性は違うかもしれないが、その土地の人を取材するってある程度の感情移入がないとできないと思った。そして、仮に遠い場所での移住が決まったら、その土地の人の暮らしや文化を映像として記録したいと思った。それは、やはり人が好きだからだと思う。
タルケンさん、ナギノさん心からありがとうございました。展示会が終わって落ち着いたら、また沖縄へ行きます。そのときは、また沖縄の魅力をたくさん教えてください!  

増田 亮央(ますだ りょお)  

垂見健吾さんHP:https://taruken.com/
垂見健吾さんInstagram:https://www.instagram.com/kengotarumi/

取材/ライター:増田 亮央
編集:新野 瑞貴
監修:後藤 花菜
撮影:中村 創

50年1つの仕事を続けた方のポートレートや仕事風景をフィルムカメラで撮影した写真集「ひとすじ」製作中!最新情報はこちらからご覧ください。▷instagram @hitosuji_pj

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