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「アイヌ文化のおかげでお客さんがくる。こんなありがたい商売はない。」
「ひとすじ」は、”50年以上ひとつの仕事を続けている”方々を、フィルムカメラを用いて写真におさめるプロジェクト。
個人が自由に仕事を選べるようになり、転職や職種転換も当たり前になった現代だからこそ、その人々の生きざまはよりシンプルに、そしてクリエイティブにうつります。
このnoteでは、撮影とともに行ったインタビューを記事にしてお届けします。
2024年3月下旬。都内は少し春の陽気を感じ始めたタイミングで釧路へ。
想像より雪がない釧路駅からバスに揺られること約2時間。真っ白になった阿寒湖を横目に、アイヌの村を意味する「アイヌコタン」に到着した。
「アイヌコタンにお越しの皆様へご案内します〜」という女性のアナウンス声やアイヌの楽器であるムックリの音が乾いた空気に響き、雪がしんしんと降り続ける、そんな場所だ。
今回はお店を始めて51年、チニタ民藝店の店主、西田正男さんとアイヌ刺繍をやられている香代子さんご夫妻にお話を伺った。チニタとはアイヌ語で「夢」という意味。お店では熊の木彫りやストラップ、香代子さんが縫った刺繍のアイテムが売られている。
動物や湖などの自然や自然現象にカムイ(神)が宿るとして敬ってきたアイヌ文化。そんな文化を次世代に紡いでいかれているお二人だからこそ、「日々の感謝」や「普段の生き方」について学ぶことがたくさんありました。
こんなありがたい商売はない。
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ー まずはチニタ民芸店の店主、正男さんにお聞きします。お仕事としては、このお店の運営とともに、工芸組合の理事もやられてるとお聞きしました。
正男さん:そうだね。普段は自分のお店である『チニタ民芸店』で働きつつ、1日に2回アイヌコタンにある阿寒湖アイヌシアター『イコㇿ』でアイヌ古式舞踊の踊りもしてる。あと、阿寒アイヌ工芸協同組合の代表理事もやってるね。気づけば代表理事も30年。まいったな(笑)。
ー 今のお店ははじめてからは何年ですか?
正男さん:51年だね。元々は郵便局で働いていたけど、親がこの場所でやっていたお店を辞めるタイミングで、脱サラして引き継いだ。
ー その当時、継ぐことを迷ったりしませんでしたか?
正男さん:迷いなんてなかったよ。親がお店を辞める話が出た時に、この場所を他の人に貸す話が出てきた。それだったら迷わず、自分たちがやろうと思った。ここで生活していかなきゃいけないしね。
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ー お店の仕事は楽しいですか?
正男さん:楽しいね。アイヌ文化のおかげで、アイヌ文化に興味を持つ人がいて、実際にお客様がきてくれる。こんなありがたい商売はない。
ー そう思えるのは、素敵ですね。51年も働かれてる中で、記憶に残ってる出来事はありますか?
正男さん:特にないな。商売をやってて、特に印象に残ることってないね。毎日が淡々と過ぎてる感じだね。
褒められて載せられた刺繍
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ー 香代子さんはいつから刺繍を始められたのですか?
香代子さん:たまたま最初の就職先が、阿寒湖漁業協同組合で、そこでお父さん(正男さん)に出会って、結婚したの。お店を手伝い始めてから、刺繍を習い始めた。義理の母が刺繍をするとお駄賃をくれてね。正直、最初はお金に目が眩んで始めたね(笑)。でもやってよかったと思う。
ー 刺繍は楽しいですか?
香代子さん:そもそも楽しむためにやっているから、辛いと思ったことはないね。大変だって思ったことは一度もない。やりたくない仕事をやらされる方がきついね。
ー 香代子さんは刺繍をする中で、記憶に残ってる出来事は何かありますか?
香代子さん:毎年10月に阿寒湖でまりも祭りがあって、そこに出る人に自分が刺繍した着物を貸してたの。それである年に、私が作ったやつじゃない着物を貸したら、その人が「元の着物に戻して。元の着物、なんだか心地いいんだよね。」って。私がつくったとはその人に言ってないの。着た時に、少しでも心地よいものをって刺繍をしながら思っているから、「しめた!これだ!」って。想いがまさに達成された瞬間だったね。
文様は必ずあなたの行いを聞いている
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ー お店には素敵な刺繍アイテムがたくさんありますが、アイヌの刺繍の文様はどんな意味があるんですか?
香代子さん:魔除けだね。文様は悪いものが寄ってこないようにって。でも「どんな文様?」って聞かれたとしても、作った人じゃないとわからないね。
ー なるほど!香代子さんは普段はどうインスピレーションを受けて、作っていますか?
香代子さん:普段は、道端や森に落ちている、いろんな葉っぱをお店の壁に貼るの。そうすると「こんな色もあるんだ。この色とこの色の組み合わせがあうんだ」って新たな発見がある。だけどそのせいで、店中が葉っぱだらけになるの(笑)。
ー 今回は冬だから見られなくて残念です...!刺繍はご自身が作られるだけではなく、教えたりもしてらっしゃると聞きました。
香代子さん:そう。教えている。子どもに刺繍を教える時は、いじめのことも教えるの。
ー いじめについてですか?それはどういう経緯で教えることになったんですか?
香代子さん:昔、アイヌのじいちゃんに「差別されたことなかったの?」と聞いたら、「口に出したくないほどあった」と答えていた。私自身のこれまでの経験も踏まえて、「全部この文様が聞いている。いじめた人もいじめられた人も、この文様が聞いている。将来この刺繍を身につけた人が幸せになれるか、健康でずっといられるか神様が全部聞いてる。だから決してそういうことをやってはいけない。」って教えてるね。
ー 刺繍の技術だけではなく、今後の人生哲学についても教えられてるんですね。
香代子さん:アイヌの自然の中にはいい神様も悪い神様がいる。だから神様が、幼い頃からちゃんとした生き方してないと助けてくれないってね。子どもだけじゃなく、大人や外国の人にも教えるね。人を思う気持ちとか、謙虚な気持ちとか、そういうのが刺繍の表現の仕方にも出てくると思ってる。
それに、まだまだ続くよ。
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ー 香代子さんは結婚後、刺繍をやり続けられていて、辞めたいと思ったことはありますか?
香代子さん:辞めることを考えたことはないね。次の若い世代に、刺繍を続ける人たちをつくらなきゃいけない。その子たちに後を継いでもらって、文化を絶やさない。だからこそ、刺繍が好きな人には楽しく教えなきゃね。
ー 続いて、正男さんにお伺いします。お店がスタートしてから51年。始めた当初はここまで続くと思ってました?
正男さん:思ってたよ。それに、まだまだ続くよ。お店を終わりにしようと思ったことは一回もない。唯一、不安になったのはコロナの時くらいかな。あの時は、お客さんが全くこなかったもんね。ただ、コタン全体として後継者不足の問題がある。子どもが継がないお店も出てきてる。それが一番の問題。アイヌ文化をしっかり残して広めていきたいね。
ー 特に、アイヌ文化のどの部分を残していきたいですか?
正男さん:「感謝・尊敬・畏怖」だね。そういう、これまでの先人たちが大切にしてきたアイヌ文化を、お店や踊りを通して、多くの人に伝えて残してきたいね。
編集後記
私自身、「日本は実は多民族国家なんです。北海道にはアイヌ民族がいます。」と学校の社会の授業でさらりと習ったくらいで、アイヌ民族やアイヌ文化について深くは知らなかった。
そんな私がアイヌ文化に興味を持ったのは、漫画『ゴールデンカムイ』の影響が大きい。友人に勧められ、漫画とアニメを見ていくうちに、アイヌ文化に触れたい気持ちはもちろん、冬の北海道に行きたい気持ちが止まらなくなった。結局2022年の10月、2023年の2月と立て続けに北海道を訪れ、白老にあるウポポイ(民族共生象徴空間)や今回訪れたアイヌコタン、ゴールデンカムイにも出てくる摩周湖や知床に立ち寄った。マイナス20度にもなる冬の北海道なんて誰が行くんだと思っていたが、今はあの寒さの虜になってしまった。
今回の「ひとすじ」プロジェクトで25組を取材・撮影すると決めた中で、どうしてもアイヌに関わる方の取材を外すことはできないと思い、お忙しい中、西田正男さん、香代子さんにお時間をいただいた。
やはりアイヌ文化は生活やそもそもの考え方に紐づいていて、話を一度聞いたからといって理解できるものではない。しかし、阿寒の森の大自然に身を置き、イコㇿで正男さんが踊られた「ロストカムイ」を見たり、香代子さんから刺繍の文様について聞くことで、アイヌのあらゆるものに精神が宿っているということは肌で感じられた。
アイヌとはアイヌ語で「人間」を意味する。アイヌ民族のルーツのありなしに関わらず、人間として、自然や生き物、事象に日々感謝し、生きていきたいと思う。
書き手:中村 創
チニタ民藝店
〒085-0467 北海道釧路市阿寒町阿寒湖温泉4丁目7 阿寒湖畔アイヌコタン
HP:https://www.yugefarm.com/
TEL: 0154-67-2413
公式サイト:https://ja.kushiro-lakeakan.com/eat_souvenir/4750/
営業時間:8:00-22:00(不定休)
取材/ライター/撮影:中村 創
編集:新野 瑞貴
監修:後藤 花菜
50年1つの仕事を続けた方のポートレートや仕事風景をフィルムカメラで撮影した写真集「ひとすじ」製作中!最新情報はこちらからご覧ください。▷instagram @hitosuji_pj