採用活動におけるHRテック(AI)の活用

「HRテクノロジー」(HRテック)が日本において最も活用され始めてきている領域が採用分野であると言われており、すでに様々な種類のサービスがある。例えば、エントリーシートの選別を行うものや、会社と応募者との間のマッチング度合いの測定を行うもののほか、ビデオ面接の録画データを解析するものや、面接における質問事項を作成するものなどがある。

これまでは「ヒト」がエントリーシートや面接による応募者の選別や評価等を行っていたため、採用業務に膨大な時間と労力がかかっていた上に、必ずしも公平な選別や評価ができていたとはいえないが、今後採用の場面でHRテックを活用することにより、採用活動の効率化・迅速化を図るとともに、合否判断を客観的かつ公平に行うことが可能になり、また、活用方法によっては、職務と人材のミスマッチを防ぎ、企業全体の生産性の向上につなげることができるといえる。このように、採用の場面でHRテックを効果的に活用することができれば、企業に様々な良い影響を与えるといえる。

もっとも、採用の場面でHRテックを活用することによる法的な問題点にも留意する必要がある。具体的には、採用の意思決定をHRテックに行わせたり、採用面接や面接事項の決定をHRテックに行わせる場合には、特に注意が必要である。

企業には採用の自由が認められるが、「法律その他による特別の制限」がある場合には、採用の自由が一定程度制約される。例えば、国籍、信条又は社会的身分による差別(労働基準法3条) や、性別による差別(労働基準法4条、男女雇用機会均等法5条等)のほか、障害による差別(障害者雇用促進法34条等)や、年齢による差別(雇用対策法9条)は、基本的に認められていないため(例外が認められているものもある)、これらの差別により不採用とした場合には、民法上の不法行為に該当する可能性がある。そのため、採用の意思決定をHRテックに行わせた場合、当該製品の機能の内容や設定の仕方等によっては、HRテックが差別的な採用・不採用決定を行ってしまうおそれがある。したがって、採用の意思決定をHRテックに行わせる場合であっても、HRテックが行った採否の判断が法令に違反しないかについては、「ヒト」の手によりチェックすることが望ましい。

次に、採用の過程での応募者に対する調査事項及び調査方法についても企業に一定の裁量が認められているが、応募者の人格的尊厳やプライバシーなどとの関係で、一定の制約に服する。すなわち、応募者に対する調査は、社会通念上妥当な方法で行われることが必要である上に、応募者の人格やプライバシーなどの侵害になるような態様での調査は慎まなければならず、また、調査事項についても、企業が質問や調査をなしうるのは応募者の職業上の能力・技能や従業員としての適格性に関連した事項に限られると解すべきであるとされている 。そして、個人情報保護等の観点からも、人種、民族、社会的身分、門地、本籍、出生地その他社会的差別の原因となるおそれのある事項や、思想及び信条や、労働組合への加入状況を収集することは原則として認められないものとされている(職業安定法第5条の4、平成11年11月17日労働省告示第141号)。また、性別による差別を根絶するため、採用面接に際して、結婚の予定の有無、子供が生まれた場合の継続就労の希望の有無等の一定の事項について女性にのみ質問することは禁止されている(男女雇用機会均等法5条、平成18年10月11日厚生労働省告示第614号)。そのため、採用面接や面接等における質問事項の決定をHRテックに行わせた場合、設定の仕方等によっては、面接等において違法な調査を行ってしまうおそれがある。また、違法にならなかったとしても、レピュテーションリスクや社会的・倫理的な問題を生じさせるおそれもある。したがって、採用面接や面接等における質問事項の決定をHRテックに行わせる場合であっても、質問事項が適法かつ適切であるかについては、「ヒト」の手によりチェックすることが望ましい。

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