お父さん、もしかして・・・
近所の家電量販店で、コピー機を買った。これも次の確定申告で経費になると思うと、お金は出ていくけれど、得した気持ちになる。サラリーマンを辞めて3年。少しはフリーランスらしくなってきたかな。
父は「俺は社長だぞ」と言っていた。「従業員はいないから、一人社長だ」と笑っていた。じゃあ私は社長令嬢だね。そう言って笑い合った。
先輩だったんだな。
私は社長ではないけれど、一人で事業をやっているという意味では、父は私の先輩だ。カードが動き出してひと月足らず、父の新たな顔が次々と見えてくる。亡くなって、5年?7年?父の存在が、私のなかで勢いをもって鮮やかになっていく。
姉に送る分をコピーし、ついでに私も1枚作ってみることにした。父の代表作「長崎遠景」。大きく稲佐山、その手前の斜面地に並ぶ建物、港を挟んで、教会やホテルらしきシルエットと長崎名物のチンチン電車。材料や道具は全て、父が使っていたものがそろっている。
カードを作る作業はシンプル。紙に印刷されている、父の残した線を切って、折る。ただそれだけ。それが、できないなんて。建物の窓が小さすぎる。線と線の間隔が狭すぎる。折り目が細すぎる。
細かな窓は切る気にならなかったので省き、とりあえず完成として、写真を撮って姉に送った。
なにこれ。しんどすぎる。この折り目とか、変態じゃない?
初めてカードを作った収穫は、父が変態かもしれないと気付いたことと、私には紙の裏表が分からないことがはっきりしたことだった。「若干ザラザラと、かなりデコボコの面があるよ」と姉は言うけれど、正直全く分からなかった。見れば見るほど、どちらもザラザラしているしデコボコもしていると思った。そういう繊細なものを感じ取るセンスが私にはないのかも知れない。それでもいい。分からないことはすぐ人に聞く、フットワークの軽さには自信がある。餅は餅屋。紙のことは紙を売っている人に聞けばいい。父のカードを数枚持って、地元の文房具店に向かった。